万葉集の秘密~日本文化と中国文化
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大伴旅人の「梅花の宴」序文に込めた日本文化への想い
万葉集の秘密~日本文化と中国文化(5)「梅花宴序」と多文化社会
上野誠(國學院大學文学部日本文学科 教授(特別専任)/奈良大学 名誉教授)
日本文化は中国的なものやグローバル文化とは切っても切り離せないが、一方で「われわれの文化を大切にしなければいけない」という想い、ローカルなものを生かそうという姿勢も持っていた。それは、『万葉集』巻5、元号「令和」の典拠ともなった「梅花園序」にも見て取れる。私たちは今、多文化社会の中で生きている。だからこそ、『万葉集』から現代日本が学ぶべきことについて、この機会に考えてみたい。(全5話中5話)
時間:10分37秒
収録日:2022年9月13日
追加日:2023年4月11日
≪全文≫

●「梅花宴序」で示した「われわれの文化を大切にする」という姿勢


 『万葉集』巻5でありますが、天平2(730)年の正月に、大伴旅人邸宅に集まって宴会を行いました。この宴会を行うにあたって、大伴旅人邸宅には、外来の(中国からもたらされた)梅の木が植わっていて、梅見の宴会を行った。ですから「梅花の宴」とおわれています。その梅花の宴で詠まれた32首の歌が並んでいるのですが、その前に序文があります。

 そこに、「初春の令月にして、気淑(よ)く風和(やはら)ぎ」という一文があります。

 初春(正月)の麗しき月で、気淑く(天気がいい、大地の気もいい、集まっている人の気もいい)ところで、宴会を行う。この令月の「令」と「和」を取ったのが、「令和」という年号です。しかしこの序文は、後半が素晴らしいのですよ。

 「梅の花を皆で見よう。おいしいお酒を飲もう。お正月は気分いいね。歌を詠もう」と言っているわけですが、その「梅花宴序」(梅の花の宴で32首の序文)の後半の箇所は、どのように書いてあるかというと、こうです。

 「若し翰苑(かんゑん)にあらずは、何を以(も)ちてか情(こころ)を述(※)べむ。詩に落梅の篇を紀(しる)す。古(いにしへ)と今と夫(そ)れ何そ異ならむ。宜(よろ)しく園の梅を賦(ふ)して聊(いささ)かに短詠を成すべし。」
 ※「述」は原文では「手」遍+「慮」

 こういう気持ちを表すためには、やはり詩を作らなければいけない。詩を作る庭に私たちはいるのだ。何をもって心を述べることができるだろうか。中国には梅の花の散る美しさを述べている詩がある。昔の中国と、今の私たちの日本と、どうして異なるところがあろうか。そこで皆よ、庭の梅を題として詩を作ろう――。

 ところが、ここに「いささかに短詠を成すべし」とあります。つまり昔の中国、われわれが学習した中国は漢詩の国で、そこでは落梅の篇を漢詩で作りました。しかし、われわれは日本なのです。「短詠」とは日本の短い歌のことなので、「五七五七七」です。われわれの歌は五七五七七だよ、ということが『万葉集』の「梅花宴序」に出てくるのですね。

 中国を常に意識し、中国を学び、しかし、われわれは中国ではない。決して中国を排斥するわけでもない。これは大切なものであ...

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