●日常史研究から見えてくる、身分で異なる食生活
―― ということで、日常史とはどういうものなのかという広がりと、いかに動きがあるかということも教えていただきました。今回はその中でも特に食事に絞ってお話を伺っていければと思います。この本(『古代中国の24時間~秦漢時代の衣食住から性愛まで』)でも朝から始まって夜までという中で食事のシーンが何カ所か出てくるのですけど、お書きになる上で、食事のシーンで先生がこだわったところというか、何か気になったところはどこになりますか。
柿沼 やはり皇帝というのは一番のお金持ちで、当時、何でも食べられるのです。その人が何を食べたのかというのは記録に残っています。そういうものは歴史学者であれば簡単に調べられるのです。それに対して一般の人たちですが、例えば日常、僕レベルの人がいたとして、朝、夜、何を食べていたのか。あるいは1日に何回食事をしているのか。意外にわからないのです。それを調べるのに苦労したということです。
例えば大雑把に説明すると、皇帝です。皇帝はやはり色々なものを食べていて、「熊の手のひら」などというものも食べています。僕は食べたことがありませんが、今でも珍味といわれます。そんな記録があったりしますし、三国時代よりもう少し後の時代は、珍味の文化がすごく栄えていて、豚の育て方に至るまでちゃんと記録が残っていたり、あるいはある貴族がこういうふうに豚を育てましたという記録があったりします。
―― (その記録には)何か変わったことが書かれてあるのですか。
柿沼 例えば、人の母乳で育てる。
―― 人の母乳で育てると。
柿沼 ええ。今でも変な話、グルメの人は、豚肉は育成段階から皆さんこだわるのですよね。
―― たしかに、どんな餌をあげるかというのはありますね。
柿沼 例えば、僕は生ハムが好きなのですけど、生ハムだと、確かイベリコ豚にはドングリを食べさせます。中国古代の人では、人の母乳で育てた豚肉は特別やわらかいということで、当時の貴族はそれをやるのですけど、さすがに時の皇帝から、「あいつは人でなしだ。やり過ぎだ」というようなことをいわれているというような記録が残っています。なので、色々なものを食べていますし、貴族に関しては調べようがないというか、逆に広がり過ぎてしまっていて、何でも食べると。それに対して一般民はどうかとい...