●台湾問題に対する中国への態度はウクライナ問題のロシアより重要
さて、EUやNATO、あるいは民主主義諸国から、今、ウクライナは結束して支持を受けています。しかし、繰り言かもしれませんが、せめてクリミア半島の占領の直後からドイツやフランスもきちっと反応を出していたら、また今回の様子が違ったのではないかと思うのです。
これは日本においても、経済諸団体などや、あるいは日本の中国へ進出している企業の腹のうちをもとより読むことは、最終的にできません。しかし、また同時に企業倫理として、彼ら自身がたいへん利益を享受しているところの自由競争、あるいは民主化の原理というものがきちっとしなければそもそも資本主義の成熟と発展というのは原理的にはあり得ないわけです。特に日本をはじめとする、もともと後発的に資本主義を起こした国はそうだったわけです。このあたりがスタンスとして分からないのが、他の日本政府あるいは日本国民の一部ではないかと思うのです。
私自身がウクライナ有事、あるいはウクライナという離れたところについて語るということは、それはある意味で自分のさまざまな利益や存在の代償を伴うわけではありません。しかし、台湾という、中国が大きく絡んで、そこにおいてはっきりとした態度、あるいは立場というものをそれなりに迫られた場合にどうするのかというと、中国は日本にとってロシアよりある意味ではるかに重要で、はるかに大規模なグローバルサプライチェーンに組み込まれているということもありますので、物事のレベルが違ってくるかもしれません。
●台湾への武力行使が中国にとってマイナスであることを示すべき
しかし、考えてみた場合、中国にとっても、また日本にとって中国市場が大事なのと同じように、中国にとっても日本という国の持つ技術やサプライチェーン、これはたいへん重要なのであって、そもそも武器というものを大事にし、「唯武器史観」のようなことにおいて戦争を起こすことが、台湾統合ということで正当化されるというものでもありません。
仮に中国の立場から正当化されるにしても、著しく台湾のインフラストラクチャーを毀損してしまい、半導体メーカー工場までも戦役に入ってきたりします。それはどうするのか。それから技術者やさまざまな企業体を壊すことになった場合、本来、平和裏に中国と統合していくからこそ出てくる発展の可能性を自ら壊してしまうのではないかという、そういう危惧が中国自体にとっても理性的には出てくることを、私としては期待しておきたいわけです。中国にとっても、日本との関係が切断されることが、経済において悪影響を及ぼすということをやはり理解しておく必要があります。
中国は、日本だけが中国との関係の悪化によって経済的な被害を被るというようなことをしきりにブラフとして語りますが、逆も真なりだということを考えなければならないわけです。こういう点で、ウクライナに対して、西側諸国は戦争が起きた後、非常に大規模に、そして最新技術を提供し、武器の供与などに対しても熱心になったわけです。
それによってウクライナはなんとか今、戦っているということになりますが、基本的にいうと、この教訓が示しているものは、台湾というより、地理的にウクライナと違って輸送アクセスが難しいようなところなどを考えたときに、事前に台湾に対するアメリカや日本の可能な限りでの援助を示しておくということです。それは武器だけに限りません。ウクライナのときにそうだったように、情報の提供情報というものを事前に与えていくということは、台湾の抵抗や台湾の力を強めていく上で、すこぶる大事なものになるかと思うのです。
そして、実際に台湾に侵攻した場合に起こり得る台湾のインフラや産業の破壊によるダメージの数字的な指標も弾いて出しておく必要があります。これを国際世論として共有することによって、台湾を武力で取ろうとした場合に、各国のダメージと経済的なマイナスが起こることについての、いわば客観的なデータを示しておくということは、このウクライナ問題がわれわれに示してくれている、ある種の教訓ではないかと思います。つまり、中国にとって何が得で何が損であるかということについて、きちっとわきまえてもらうということが大事ではないかと思います。
●譲歩は弱さの象徴…ウクライナの教訓
いずれにしても、ウクライナの教訓として、フランスやドイツのように厳しい言い方をしますと、クリミア半島は占領され、東部2州が占領されても、そこではある意味でシラを切って、ロシアこそ友人であると、エネルギーを入れてきますよと、そして安価な天然ガスや石油によって西側の平和産業、あるいは平和の基礎が維持されるという考え方が、いかにむなしいものだったかを示しています。
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