●かつては優れていた日本的な雇用慣行
―― このような問題の背景として、日本的な雇用慣行があるだろうというところですね。
宮本 よくいわれる話かと思いますが、日本的雇用慣行です。3つ特徴があるといわれています。終身雇用、年功賃金、年齢とともにお給料が上がっていくという仕組みです。そして、労働組合が企業別になっていることです。これは日本人からすると普通なのですが、外国では企業ごとに労働組合はありません。産業ごとや業種ごとに労働組合があります。いずれにしても、この3つが日本的雇用慣行の特徴といわれています。
日本的雇用慣行が悪いものかというと、そうではありません。かつては、日本の高度成長期を支えた実に素晴らしいものだったため、外国からも「日本の秘密は何なのか」「日本はなぜこんなに成長したのか」と、多くの研究者や企業の経営者が訪れて研究の対象としたのです。終身雇用、年功賃金、そして企業別労働組合という雇用慣行が、日本の高度成長を支えた素晴らしいものだと評価されていました。だから、かつては本当に優れたものだったのです。一概に悪いものではないのです。
ただ、時代遅れになってしまったのです。なぜ時代遅れになったのかが問題です。日本的雇用慣行、例えば終身雇用とか年功賃金は、戦前には存在しませんでした。これらは戦後にできたのです。「日本的雇用慣行は日本の文化だ」という方もいらっしゃいますが、それは誤解です。
いつできたのかというと、だいたい1960年代、1970年代に日本的雇用慣行は生まれたといわれています。生まれて、それが普及して定着したのです。
●日本的雇用慣行が経済成長とマッチしたからくり
宮本 ではなぜ、日本的雇用慣行は生まれたのかというと、2つの条件があったのです。1つ目は、日本が持続的で高い経済成長を遂げていたことです。
もう1つは人口構造です。若い人が多かったのです。では、経済が成長して、人口構造として若い(世代が多い)と、なぜこのような日本的雇用慣行が生まれるかというと、これには理由があります。経済が成長していますから、企業はモノを作れば売れる、サービスを提供すれば儲かるという状況です。「どんどん作ろう」、「企業を拡大しよう」というのが、1960年代、1970年代の日本でした。
そうなると、人手が必要です...