●労働市場の流動化を妨げている要因:退職金の優遇税制
―― 今までのお話で(労働市場改革が)なぜ必要か、どう変えなければいけないかについて、いろいろとお話しいただいたわけですが、ここから先が非常に難しいお話です。具体的な制度の壁、制度の問題がたくさんあるということで、何を変えれば変えられるのかというところなのですけれど、そこはいかがでございましょうか。
宮本 冒頭(第1話で)何名かの方から非常にシャープなご意見をいただきましたが、日本は労働市場が流動的になりにくい仕組みになっています。その要因のひとつが税制です。これが転職を妨げるような仕組みになっています。
その1つが退職金の優遇税制です。同じ企業に20年以上勤務すると、退職金を受け取る際に税制上の優遇を受けることができます。例えば、40年同じ企業に務めた場合、この優遇制度を利用でき、退職金にかかる税金が安くなります。ところが、同じ40年間働いていても、2回転職をしている場合はどうなるでしょうか。例えば、最初の企業に15年、次の企業に15年、最後の企業に10年務めたとします。この場合、どの企業でも20年働いていないので、優遇措置を受けることができません。
つまり、1つの企業に20年以上勤めると退職金の優遇税制を受けられるため、退職が近い人はあえて転職しようというインセンティブは持ちにくくなります。
このように、税制1つとっても、転職や活発な労働移動を妨げる仕組みになっているのです。
●労働市場の流動化を妨げている要因:不透明な解雇ルール
宮本 解雇のルールについてです。このルールは不明瞭になっています。労働市場を流動化させるには、企業が柔軟に労働を調整できることが重要ですが、解雇に関するルールが不透明であるため、企業が労働調整を行いにくいのです。
日本には整理解雇の4要件というものがあります。これは何かというと、企業の経営者が業績悪化により従業員を解雇したい場合に、4つの条件を満たさなければ解雇できないというものです。
そのうちの1つが「必要性」という条件です。これは、特定の人を解雇する場合、その解雇が本当に必要であることを示さなければならないというものです。そこでのポイントは、新しい人を雇ってはいけないということです。要するに、解雇は人材が不要になったの...