●「雇用は生産の派生需要」
―― どの部分が躍動的な労働市場の壁になっていて、何を変えなければいけないかというのは、講義の後半でお話をいただく形にいたしまして、次にお話をいただきますのが、新しい環境がどうなっているのかというところですね。
宮本 はい。先ほど労働市場改革についてお話(第2話で)しましたが、好むと好まざるにかかわらず、日本は労働市場を変えざるを得ない状況にあります。なぜかというと、スライドのグリーンの文字にもある通り、経済学に「雇用は生産の派生需要」という、非常に重要な命題があります。
私は大学で経済学を教えていますが、1年生が入学して最初に受ける「入門経済学」の授業で、必ずこの言葉を伝えます。「雇用は生産の派生需要」とは、生産があって雇用が生まれるという考え方です。この説明を聞くと、多くの方は「何を言っているの?」と思われるかもしれません。「モノを作るのは人間なのだから、人がいてこそ初めて生産はできるはずだ。人ありきの生産だ」と考えるのが一般的でしょう。
しかし、経済学では発想が逆で、生産が先なのです。生産がないと雇用は生み出されない。これが経済学の考え方なのです。
「エッ」と驚かれるかもしれませんが、不況をイメージしていただくと分かりやすいと思います。不況になると、残業時間の削減やリストラが行われることがあります。つまり景気が悪化し、生産が落ち込むと、雇用も減るのです。逆に景気が良くなると、「バイトを増やそう」「従業員に残業をお願いしよう」となり、労働が増えます。このように、生産が動くことで雇用が変化するのです。
少し広げて考えると、「生産が変わると雇用は変わらざるを得ない」ということになります。つまり、日本の経済の環境が変化すれば、当然ながら雇用のあり方もが変わらざるを得ないのです。
●メガトレンドの変化:人口構造の変化、テクノロジーの進歩、グリーン化
宮本 今の日本経済では、非常に大きな3つの変化が起きています。私はこれを「メガトレンドの変化」と呼んでいますが、ここに挙げている3つです。
1つ目は人口構造の変化です。先ほど(第2話で)でも図を示しましたが、日本では少子高齢化が進んでいます。
2つ目はテクノロジーの進歩です。この後、詳しく説明しますが、最近「ChatGPT」...