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Ⅵ. トランプ関税攻勢の真のねらいは
・これまで米国に大きく依存してきた国々、企業は米国を回避するルートを志向。
⇒世界の貿易、投資構造の多様化。・サプライチェーンの多様化、複雑化。
・トランプ氏は直観力が鋭い人物なので、彼が唱える関税戦略の真のねらいは、どうやら別のところにあるかもしれません。高い関税を世界にかけて、インフレが昂進し、消費と生産が減少し、成長が鈍化して、世界経済が分裂しても、そんなことは彼にとってはどうでも良いことかもしれません。
・トランプ氏の言動を見ているといくつかつながっている事象があります。ひとつはバイデン政権時代に Janet Yellen 財務長官らが主導して、GAFAMなどアメリカの巨大テック企業が事業所のない国や地域でも高額なサービス料金を獲得できた税制の国際的仕組みを改革し、厳格な国際課税制度を整備したことがありましたが、トランプ氏はこの新たな国際課税制度を廃止しました。唐鎌大輔氏は日本の近年の円安現象の根底に、彼が「デジタル赤字」と名づけるGAFAMなどの企業への莫大なサービス料支払いの存在を指摘しています(唐鎌著『弱い円の正体:仮面の黒字国:日本』日経プレミアシリーズ2024)。トランプ氏は米国の巨大テック企業の莫大なサービス料収入構造を制度化しようとしています。
・いまひとつは宇宙通信と宇宙開発です。通信が宇宙に広く拡大している現在、たとえば、イーロン・マスク氏が開発したStarlinkはすでに2万基以上の通信衛星で宇宙空間をカバーし、地上波が届かなかった地域に宇宙通信の恩恵をとどけています。この通信ネットワークはますます高密度に展開しつつあります。
・欧州ではウクライナ戦争が長期化し、ロシアの脅威が高まりつつあるので、NATO諸国は懸命に軍事費を増額して軍備を強化しようとしています。しかし、プーチン氏を信頼して停戦協議に持ち込もうとしているトランプ氏は、英仏など欧州主要国が構想する停戦後の「平和維持軍」への米軍の参加や介在には否定的です。
・また、日本の防衛力ならびに防衛予算に関するトランプ氏の側近とトランプ氏自身の発言も重要です。トランプ氏の側近は、日本は防衛費を今のGDP比2%から3%に引き上げるべきと主張しました。日本は岸田内閣の時代に1%から2%への引き上げを約束しましたが、まだ予算措置が具体化していません。また、日本は長距離ミサイルの開発...


