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NAFTAとWTOにおけるトランプの一方的な要求

トランプ発貿易戦争(4)NAFTA再交渉とWTO機能停止の危機

島田晴雄
慶應義塾大学名誉教授/テンミニッツTV副座長
情報・テキスト
トランプ大統領が影響を与え、世界を混乱に巻き込んでいるのは対中制裁を軸とする関税問題だけではない。NAFTA(北米自由貿易協定)、WTO(世界貿易機構)にも、トランプ大統領の一方的なやり方、発言の火の粉が飛び、世界を驚かせている。(全6話中第4話)
時間:07:55
収録日:2018/10/11
追加日:2018/11/19
カテゴリー:
≪全文≫

●NAFTA見直しに目をつけたトランプ


 米中は大変なことになっていますが、NAFTAというものがあります。これは、北米自由貿易協定(North American Free Trade Agreement)といいますが、これとWTO(世界貿易機構)の問題を皆さんにご紹介したいと思います。

 NAFTA(北米自由貿易協定)はこういうことです。北米というと、一番北にカナダ、真ん中にアメリカ、南にメキシコがあります。アメリカは最大の工業国ですが、さらに世界経済を発展させるために、賃金の安いメキシコ、良質な労働力のいるカナダでつくったものを、部品でも自動車でもアメリカに輸出するときは、ほとんど関税なしということにしたのです。

 そうすると何が起きるかというと、アメリカの企業がまずメキシコとカナダに投資するのですが、他にも世界中の企業がメキシコとカナダに投資して、そこでどんどんものをつくり、アメリカ市場に安く入れていき、そうして世界経済が発展したのです。トランプ氏はこれを見て、「私の生涯で見た最悪の協定だ。こんなものはたたきつぶさなければいけない」といった内容のことを、大統領選挙中に発言していました。いざ、大統領になってしばらくはできなかったのですが、とうとう2018年の夏に、「本気でやる」と言い出したのです。


●協定見直しに応じたメキシコ


 交渉は3カ国で行います。つまり3カ国協定ですから、なにか行う時は必ず3カ国でやろうというように約束をしていたのです。ところが、カナダがなかなか言うことを聞きません。カナダのジャスティン・トルドー首相は若くてすてきな人で、結構芯が強いのです。トランプ氏は大嫌いのようですが、カナダの意見を全部統合させようとして努力をしています。だから一筋縄ではいかないのです。

 トランプ氏は、厄介だなと思ったのでしょう。メキシコの方を向きました。「メキシコとの間には壁を造って、メキシコ人の不法労働を入れない」などと言っていましたが、その時は、メキシコの大統領もなかなかの人で、「壁の建設費など払わない」と拒絶しながら、「アメリカとは合理的な話をしよう」ということを言っていたのです。ところが、メキシコ人の怒りを買ったため、かなり左翼的な人が次のメキシコ大統領に選ばれたのです。2018年12月にメキシコの大統領は替わってしまうのですが、今は「レームダック」といって、それまでの間、今の大統領が地位についているわけです。

 トランプ氏は、その大統領に「今、協定見直しに応じるように」と圧力をかけました。「今やらなかったらひどいことになる」と言うので、大統領は応じました。どのみち、もうすぐ大統領ではなくなるわけですが、どういうことかというと、次のようなことです。

 メキシコの平均時給は約7ドルほどなのに対して、アメリカの平均時給は約16ドルから20ドル台です。そこで、アメリカに輸出するものの4割を時給16ドル以上のところで製造したモノをしなければいけないというわけです。ということになると、メキシコではつくれなくなります。また、メキシコが関税なしでアメリカに輸出できる自動車台数は決まっており、260万台以上は25パーセント関税をかけるといって、数も頭打ちにしたわけです。こういうことをメキシコはのみました。


●カナダもぎりぎりの妥協で再交渉に応じる


 ということで世界中が驚いたのですが、カナダも困ったのです。だけど、そんなものには応じられない、と言ったら、「では、カナダなしでやる」と言って、トランプ氏が圧力をかけました。

 カナダはアメリカが最大の通商相手国ですから、さすがにアメリカと通商しないと、立ちゆきません。けれどもアメリカは無体なことを言ってきます。ここで、トルドー氏は、国内調整に入りました。つまり、野党は、「トランプ氏に弱腰だったら、トルドー氏を降ろそう」ということで、相当な勢いになったのです。しかし、トルドー氏は一生懸命説明して、アメリカを相手に一致団結しましょうと言って、国内は団結しました。その団結をもとにして、ぎりぎりの妥協をアメリカにしました。メキシコほどではないけれど、かなり近い妥協をしたということです。

 それからもう1つ、カナダは世界最大の木材国ですが、これは守らなければいけないので、保護措置が入っています。それを一部緩和しました。そうするとアメリカからカナダに木材の輸出ができます。これで、トランプ氏も納得して、選挙民に「俺は交渉に勝った、勝った」と言って回ったのです。このようにNAFTAは10月の初めに一応、決着しました。


●新協定USMCAと日本の困惑


 トランプ氏は「NAFTA(「North American Free Trade Agreement)」という言葉が大嫌いです。「free」「trade」という言葉も嫌いです。ですから、変な名前を付けたのです。「USMCA(NAFTA新協定)」というのですが、なんと...
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