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トランプの経済観は一言でいうと「重商主義」

トランプ発貿易戦争(2)トランプ流重商主義

島田晴雄
慶應義塾大学名誉教授/テンミニッツTV副座長
情報・テキスト
追加関税の応酬で激化する米中の貿易問題について解説するシリーズレクチャー。第2話では、そもそもトランプ大統領がどのような経済観、根拠を持って他国の制裁に乗り出しているのかという点を見ていく。そこから浮かび上がるキーワードは、時代を逆行するような「重商主義」だ。(全6話中第2話)
時間:09:33
収録日:2018/10/11
追加日:2018/11/17
カテゴリー:
≪全文≫

●選挙での票獲得を狙って貿易を問題化した


 それでは、順を追って、米中の貿易問題を皆さんと考えたいと思います。「トランプ氏は、なぜこういうこと(貿易戦争)を始めたんだ。一体、何を考えているんだ」ということです。

 トランプ氏は、2016年の大統領選挙中から貿易のことを言っています。オハイオやウィスコンシン、ミシガンといった、自動車産業や鉄鋼産業のあるところを「ラストベルト」といいます。鉄がさびてしまったという意味ですが、つまり、あまり仕事がなく、産業がうまくいかないということです。ところが、そこには白人の大変苦しんでいる労働者が山ほどいるわけです。そういう人たちが怒っていることに、トランプ氏は気が付きました。そこで「よし、この人たちの票をもらおう」ということになったのです。

 そこで、トランプ氏はこういうことを言ったのです。「君たちの仕事は日本と中国にだまし取られているんだ。俺が取り返してやる」。英語だとこういう言い方になります。“Your jobs have been ripped off and shipped off to China and Japan. I will get them back to you guys. ”こういうことをずっと言い続けていました。

 大統領になってから1年ぐらいは、減税の話などでいろいろと時間を使ってしまったのですが、2年目になって「よし、やってやるぞ」ということで、ここまでやってきたのです。


●大貿易時代のリーダーだったアメリカが再び重商主義へ


 トランプ氏の経済観は今の経済学の専門家には信じられないものですが、一言でいうと、「重商主義」です。皆さん、重商主義という言葉は知っていますね。これは、16世紀から18世紀に、イギリスやフランスがいわゆる列強になっていった時に持っていた考え方です。つまり、国というのは、他の国にどんどん輸出をしてもうけ、そして、他の国からあまり買わない。そうすると、経済が成長するのだというもので、これが重商主義です。英語では“mercantilism”といいます。

 どういうことになったかというと、帝国主義を育てることになってしまったのです。それで帝国主義のお互いの戦いがどんどん進んできたのですが、実は第二次大戦直前まで、そういう考え方があったのです。ひどかったのは、1920年代~30年代に重商主義的な考え方の下、「自分のところは買わない方がいい。外に輸出した方がいい」ということで関税同盟という関税の壁をつくってしまったことです。

 お互いにグループの国で関税を高めていく。そうすると、関税圏の間でいさかいが起きてきます。それがある意味では、第二次大戦の遠因だともいわれているのですが、戦後、そういう考え方は地球を滅ぼすからやめようということになりました。最大の戦勝国だったアメリカが、なかなか立派だったのです。胴元のような役割を担って「そういうことではないのだ。世界は得意なところに特化するべきだ。得意なものをどんどん伸ばして、不得意なものは外国から買えばいいのだ」と、言ったのです。そうすると、1足す1は2ではなく、2.5になっていくわけです。そうして戦後の経済はどんどん成長し、大貿易時代といわれて、成長しました。世界中から貧困も消えていったし、戦争もあまりなくなっていきました。それを、ずっとリードしたのは、実はアメリカなのです。

 ところが、トランプ氏は、そういう歴史を知っているのか知らないのかよく分かりませんが、理解していないのではないかと思われます。200年前の独特で乱暴な理屈の下、こういう重商主義的なことを始めたのです。アメリカが戦後七十数年かかって構築してきた世界の強力な枠組みを、トランプ氏は片っ端からどんどん壊しているのです。米中の貿易戦争がそれに当たります。


●世界は異形の政権を相手にしなければならない


 もう1ついえるのは、トランプ政権は異形の政権だということです。普通なら、誰か見識のある人がトランプ氏に「それはちょっと違うんじゃないですか」と言ったりするでしょう。しかし、レックス・ティラーソン国務長官という世界最大の石油会社の会長をやった立派な人がいるのですが、突然、ツイッターで「あいつを辞めさせる」と言って、辞めさせました。立派な軍人もどんどん辞めていきました。今残っているのは、少々考えの片寄った人たちのように思います。しかも、その人たちも、トランプ氏がどう考えているのか、よく分からないのです。トランプはある日突然、考えを変えますから。こういう人を相手にするのですから、世界諸国は今、大変です。そういうことです。


●安全保障を理由に鉄鋼・アルミに高率追加関税


 このトランプ氏が、2018年3月に「私は選挙で公約した。だから、関税をかけるのだ」と言い出したのです。何に関税をかけるのかと尋ねると、「鉄鋼とアルミニウムだ」と言うのです。鉄鋼とアルミニウムにどう...
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