●覇権国が追い上げられると事件が起きる
では、米中はどうなるのかというと、こういうことなのです。アメリカは覇権国です。圧倒的な力を持っています。世界史を振り返っても、圧倒的な力を持っている国が次の国に追い上げられると、いろいろな事件が起きていることが分かります。
2000年以上前にこういう事件がありました。ギリシャでスパルタがアテネを追い上げました。この時、ツキディデスという思想家が、「必ず戦争になる」と言ったのです。これを「ツキディデスの罠」と言います。それ以降、世界の政治学者がずっと調べているのですが、こういう覇権が脅かされる危機は、歴史上何十回とあったのですが、半分ほどは本当の戦争になっているのです。
アメリカは第二次世界大戦後の世界の覇権国です。それまではイギリスでした。実はイギリスは覇権国の時に、ロシアが追い上げたのです。これは19世紀のことで“The Great Game”といいます。ロシアのロマノフ王朝が、どんどんどんどん近隣諸国を吸収して、南下していきました。トルコもやっつけて、とうとう中東まで入っていったのです。中東は、イギリスの生命線なので、イギリスは非常に警戒して、ありとあらゆる手段でロシアと対決した。
●日露戦争はイギリスとロシアのGreat Gameのおかげで勝利
実は、日本が日露戦争を行ったことも非常に関係しているのです。ロシアはシベリア鉄道を敷いて、どんどん東進します。一方、イギリスはインド洋から南シナ海を支配しており、インドは植民地で、中国も事実上の植民地です。港はイギリスが持っているという状態です。そこへ、陸からロシアが来ると、イギリスは背後からやられるので困るわけです。そこで、イギリスはフランスと組んでなんとかしようと考えたのですが、フランスはロシアの同盟国でした。ドイツと組もうとしても、ドイツはそんなことには付き合いたくないという状態です。そうしたら、東に日清戦争で見事に勝った新興国がある。陸軍も海軍も強そうだ。この国と組もうということになって、日英同盟をつくったのです。ロシアは当然南下して、シベリア鉄道から朝鮮半島を狙いますから、結局、日露戦争となったのです。
その時、陸軍が圧倒的に強かったロシアは、黒海から黒海艦隊を出そうとしたのです。そうしたら、イギリスが海峡を封鎖したため、出ることができませんでした。しょうがないということで、ロシアはバルチック艦隊を10カ月かかって日本に送ったのです。ところが、10カ月の船旅はさすがにきつく、船の底にはフジツボが付いて、戦闘員は病気になったりしていたのです。ということで、ロシアの艦隊は進行速度がすごく遅かったのです。一方、日本はそれが速く、だから勝ったのですが、実はそうさせたのは、ロシアの艦隊に与えるのは燃料補給の水だけにして、イギリスがその他全部を封鎖したことが要因です。イギリスは、日本の国債も買ってくれましたし、そのように、イギリスのおかげで、日本は日露戦争に勝ったようなものともいえるかもしれません。これは、イギリスとロシアのGreat Gameです。
●アメリカを追い上げた日本は、バブル崩壊で失われた20年を経験
戦後はどうなったかというと、アメリカが圧倒的です。しかし、スターリンの率いるソ連(ロシア)が非常な脅威になりました。ウィンストン・チャーチルが、「鉄のカーテンの向こうは危険だ」と言いました。そこで、アメリカはそれを全部囲い込みました。戦後は、戦前のように戦争してはいけなくなりました。1928年に、世界は不戦条約を結んでいますから、戦争はできないのです。そこで、経済制裁を含めてあらゆる制裁をして、ソ連(ロシア)は自己崩壊したのです。
ちょうどその頃、日本がアメリカを追い上げました。アメリカは多分、日本を許さないと思っていたのでしょう。あのニューヨークのプラザホテルに、各国の財務相、蔵相などを集めました。これがプラザ合意です。
そこで、「日本は円が不当に安いから上げろ」と迫ったのです。為替レートに口を出してはいけないのに、アメリカはそんなことに構わず介入して、そのおかげで、円がどーんと円高に跳ね上がって、えらいことになったのです。輸出が全くできなくなるということで、日本は財政政策をフル稼働しました。金融はもう金利を徹底的に下げました。それがバブルを生んで、バブルが崩壊して、日本は失われた20年で今、息も絶え絶えなのです。つまり、追い上げてきた国は、こうやってたたきのめすというのが、アメリカのやり方で、今、中国はアメリカをそのように見ているのです。つまり、中国がそういうターゲットになったということです。
●世界の覇権国をめざす中国の意地と夢
しかし、中国は百七十数年前、1840年にアヘン戦争でイギリスにやられました。その約10年後に、アロー号事...