●中国は70年間、選挙をしたことがない
中国の問題は大きく2つです。一つは政治的な面、もう一つは経済的な面で問題があります。中国は70年間、選挙をしたことがない国なのです。世界の主要国にそんな国はありません。習近平政権は選挙で選ばれたものではないですから、国民も自分たちが政権を選んでいるという確信はありません。そのため習近平国家主席は、大虎でも小虎でも、腐敗したものは全て打倒すると言って、国民人気を得ようとしています。権力に関係のある者を懲らしめれば人気が出るだろうという発想です。
また中国共産党は、自分たちが日本軍をたたきつぶしたと主張しています。日本軍をたたきつぶしたのは蒋介石です。
元中華人民共和国駐箚特命全権大使の丹羽宇一郎氏は、習近平氏の一番の右腕である王岐山氏に選挙を勧めたことがあるそうです。王氏は中央規律検査委員会書記を歴任し、反腐敗運動を展開した人物です。王氏が言うには、たかだかアメリカ程度の3億人しかいない小さな国でも、大統領を選ぶのに1年半もかかっています。中国は14億人の人口を抱えているのだから、選挙をすれば10年はかかるでしょう。選挙をしているうちに時代が変わってしまうから、選挙なんてできないというのです。
●リコノミクスは消えた
さらに中国は経済でも問題を抱えています。リーマンショック後、4兆元の経済対策を取ると発表したことで、世界中が驚きました。日本円に換算すると約50兆円です。その7割は地方政府が担当することになりました。その結果、地方政府は成長第一を掲げ、過剰設備、過剰生産、過剰債務に陥っています。身動きが取れない状況です。
これを処理することが、習主席の打ち出した「新常態」の一つの狙いです。これは、2013年の第18期中国共産党中央委員会第3回全体会議(3中全会)において、李克強首相が掲げた原則とは食い違うものでした。李首相は経済学博士で、非常に経済に精通している人物です。3中全会で李首相は、今後の中国は、市場に資源配分の決定的な役割を担わせるしかないと主張していました。
ところが、習主席は李首相を好ましく思っていません。たしかに正論かもしれないが、それで政治は動かないという立場なのです。そこで成長率を引き上げるため、習主席は公共投資を増やし、国有企業に大量の補助金を出しました。地方は鉄道や道路など、公共事業を推進してきましたが、そのために多くの借金を抱えています。つまり、李首相の原則を習氏が打ち消してしまったのです。今や李首相の影は薄く、リコノミクスは消えたとまで言われています。李首相は今、まるで一人で座敷牢に入れられたかのような状態なのです。
●AIIBはムーディーズの最高格付けを得た
国際関係に目を向けると、新型大国関係の後に出てきたのは一帯一路です。「一帯」とはワンベルトという意味で、インド洋、アラビア海、地中海にルートをつくるという構想です。東南アジアから始まって、2016年に中国はギリシャの地中海最大の港を買収しました。ロシアに買収されなかったことが不幸中の幸いです。現在中国は、モルジブを占領しようとしています。インド洋の中心です。
「一路」は、中国から中央アジア、中東、欧州を経て、デュッセルドルフまでのルートをつくるということです。鉄道を複々線にします。これで貿易額がかなり増えています。
そのためのファイナンスを担うのが、AIIB(Asian Infrastructure Investment Bank、アジアインフラ投資銀行)です。10兆円の基金目標を立てて、2016年1月に正式に開業し、2017年6月にはムーディーズの最高格付けを得ています。今や80カ国以上が参加し、アジア開発銀行以上になりました。
とうとうここまで来ると、日本もアメリカも無視できません。安倍晋三首相は当初、アメリカの非参加と歩調を合わせて、参加を断りました。しかし、アメリカも今後参加を検討する可能性があります。中国はこうした形で、世界を仕切っていくかもしれません。おそらく今後は、最も力を持った国になるでしょう。
●中国を嫌っている場合ではない
これを日本はどう理解すべきでしょうか。中国は嫌いだという人もいますが、私は一つ重大なことがあると思います。日本政府は過去40年間、毎年数万人の中国人留学生を引き受けてきました。月額10万円を支給し、中国人留学生を丁寧に扱ってきたのです。卒業生は100万人以上に上ります。
彼らの少なくとも半数以上は、中国語と日本語の通訳ができるでしょう。私は何度も中国に行きましたが、中国人以外の通訳に会ったことがありません。日本人で通訳できる人は数千人しかいないといわれています。
もはや中国の方が大国です。GDPでは日本の約3.5倍です。小国はフットワークを生かして駆け回るものであって、大国と対峙しても太刀打ちで...