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マクロン大統領はヨーロッパの希望の光

2018年激動の世界と日本(9)ドイツとフランス

島田晴雄
慶應義塾大学名誉教授
情報・テキスト
ドイツではメルケル政権の支持が揺らぐ一方、フランスではエマニュエル・マクロン大統領がヨーロッパの再統合を掲げている。アメリカ、イギリス、ドイツ、フランスで既存の政治にNOが突きつけられる中、マクロン大統領はヨーロッパの希望となるのか。公立大学法人首都大学東京理事長・島田晴雄氏が徹底的に解説する。(2018年1月16日開催島田塾会長講演「激動の世界と日本」より、全14話中第9話)
時間:12:45
収録日:2018/01/16
追加日:2018/04/22
カテゴリー:
≪全文≫

●誰もメルケル氏の勝利を信じて疑わなかった


 次はドイツについて見ていきましょう。島田村塾は2017年の夏、ドイツ各地を訪問しました。9月23日の連邦選挙前でしたが、何があってもアンゲラ・メルケル氏が勝つだろうという雰囲気がありました。誰も彼女の勝利を信じて疑わなかったのです。

 ところが結果を見てみると、メルケル氏率いるCDU(キリスト教民主同盟)は33パーセントしか取れず、8.6パーセントもダウンです。前回の選挙では40パーセントの投票を獲得していた党ですから、驚きです。さらに、大連合のパートナーを組むSPD(社会民主党)も戦後空前の大敗でした。両党が大連立を組めば、いつも圧倒的な議席数を占めていたのにもかかわらずです。

 SPDのマルティン・シュルツ党首は、ドイツでの国政経験がありません。長くEU議会の議長を務めていた、大変な国際派です。彼がSPDからドイツに呼び戻され、党首を務めることになったのですが、その最初の選挙でメルケル氏との戦いに敗れたのです。しかも選挙後は、CDUとの大連立を拒否しました。大連立でなければドイツの政治は動きません。

 CDUとSPDは12年間にわたって大連立を組んできました。その間、最低賃金法が改善されました。しかしシュルツ氏は、これはSPDが言ってきたことなのにメルケル氏の手柄にされたと主張しているのです。CDUと大連立を組むことで、SPDの尽力が全てメルケル氏の手柄になり、SPDのアイデンティティが失われてしまったということで、シュルツ氏は大連立を拒みました。

 メルケル首相は、小さな政党と組むしかありません。この選挙で非常に躍進した政党があります。AfD(Alternative für Deutschland、ドイツのための選択肢)という名前の政党です。

 この政党は右翼、しかもネオナチです。しかしAfDは大躍進し、初の連邦議会選挙だったというのに94議席も獲得しました。得票率でいえば12パーセントで、第3党になってしまったのです。ドイツでは5パーセント以上の投票を確保しないと、議会に出られないのですが、そうしたハードルを楽々と超えてきたわけです。

 メルケル氏にしてみれば、しかしAfDは最も忌み嫌うべき右翼ですから、組むことはできません。そこで連立を模索したのが、自由民主党というプロビジネスの党です。あるいは、緑の党がいます。この双方との連立を模索していたのですが、やはりあまりに考えが違い過ぎたため、結局、駄目でした。


●ついに12日、両者で合意に達する用意が整った


 その結果、ドイツは9月に総選挙を終えて、12月になってもまだ政府をつくれないでいました。世界中が当然、落胆します。ドイツは言わば、ヨーロッパの名士だったはずだからです。シュルツ氏に対する国際世論の批判はかなり高まりました。シュルツ氏はわがままだというわけです。

 そうなると、さすがにシュルツ氏もCDUとの連立交渉に応じざるを得ません。しかし、メルケル氏と違う色を出したいと躍起になりました。そこで言い出したのが、フランスのエマニュエル・マクロン大統領の受け売りで、大ヨーロッパ連合国をつくるということです。メルケル氏はこれを受け入れません。しかし、国際派シュルツ氏は、どうしてもその色を入れろと譲りません。

 2018年1月7日から11日かけてマラソン交渉をしていたのですが、ついに12日、両者で合意に達する用意が整いました。2人で握手をして、半年後には大連立政権が誕生するだろうと言葉を交わしあったのです。もう一度ヨーロッパを良くしようという機運が高まっていました。

 ところが15日になると、SPDの地区部会や地区リーダーから大連立に対する文句が噴出します。21日に、SPDの全国大会で代表者による投票が行われるのですが、そこでもし反対派が勝てば、連立交渉は2度目の失敗に終わってしまいます。そうなれば、もう一度選挙をやり直すことも視野に入ってきますが、これはドイツ史上、空前のことです。


●とにかく既存の政治は嫌だ


 どうして、こうしたことが起きているのでしょうか。実はこれは、アメリカとイギリスにも共通する現象です。つまり、もはやこれまでの政治は嫌だというのが、国民の多数の意見なのです。アメリカ人は、とにかくワシントンのエリートでなければいいということで、ドナルド・トランプ大統領を選びました。イギリスにおいても、EUとこれまでのように付き合っていくのは嫌だ、保守党も嫌だということで、現在の状況になっています。

 ドイツでも同じです。ナンバー1、2の2大政党はもう嫌だと国民が思っているのです。それではどうすればいいのでしょうか。国民はその答えを持っていません。ですが、とにかく既存の政治は嫌だということなのです。

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