●小池氏は流れを完全に読み間違えた
最後に日本について考えていきましょう。2017年の総選挙で、安倍政権は大勝しました。小池百合子氏の新党が勝つ見込みもかなりあったのですが、彼女は自らの立ち位置を見誤りました。
小池氏は私に、3つの目があると語ったことがあります。第1は鳥の目で、それで世界を見るそうです。第2は虫の目で、ゲリラ戦ができます。第3は魚の目で、流れを読むというのです。ですから、彼女が新党を立ち上げたときには、このように一人で風を起こして勝っていくのかと感心して見ていたのですが、どうやら前回の総選挙では流れを完全に読み間違えました。
小池氏は自民党にコケにされ、いじめられているからこそ同情票が集まりましたが、指導者としての立場を確立してから同じことをしても、世論は反発するだけです。そのおかげで、安倍晋三首相は大変強固な政権が構築できました。
●社会保障の「ワニの口」が財政の「ワニの口」を生んだ
安倍首相が掲げたのが、教育無償化と全世代の社会保障です。しかし、これを実現するには莫大な予算が必要です。約2兆円かかるという試算でした。財界に3,000億円出させるとして、消費税を8パーセントから10パーセントに増税した税収から、残りの予算を出させて欲しいと訴えて、選挙にのぞんだのです。しかし、この政策は財政赤字の累積を激化させます。
この図は日本の財政赤字を示しています。1990年代から2000年代、失われた20年にかけて山ができました。経済成長はせず、社会保障給付も伸びず、しかもこの時期に世界の人口動態の中で見ても、日本が一番高齢化が進みました。だから、こうした財政赤字の山ができたのです。
次の図は、主要国の財政赤字を比較したものです。日本は赤線です。1990年初頭、失われた20年が始まる前には、日本は黒字でした。当時、世界はどこも赤字だったのです。ところが、その後の20数年で最悪の状況に陥りました。
今度はストックを見てみましょう。これも赤線が日本です。90年は世界の優等生の1人でした。マーストリヒト条約の条件で考えれば、EUに十分に加盟できる水準です。しかし、現在の日本はどうやってもEUには入れません。
なぜこうした状況に陥ってしまったのでしょうか。この図を見れば明らかです。失われた20年の間に、緑色で示された社会保障費がどんどんと伸びていくのが分かります。高齢化の進展に伴って、社会的費用がかさみました。
他方、赤は社会保障の納付金です。納付金は給料に依存しています。失われた20年間には、給料が全く増えませんでしたので、納付金も伸びません。したがって、社会保障費と納付金のギャップが広がっていくことになりました。専門家はこの現象を「ワニの口」と呼んでいます。経産省でも財務省でもそう呼ばれています。
その結果、社会保障の「ワニの口」が財政の「ワニの口」を生んでしまいました。図の青で示したものが歳入です。歳入のうち、現在税収が占めているのは6割程度です。残りは全て借金なのです。このように、財政においても「ワニの口」が広がっています。
●生まれてきた時にすでに1億円の赤字を背負う世代がいる
この債務を誰がどうやって支払うというのでしょうか。現役世代が払うしかないのですが、現役世代も大変です。払えません。そうなると、国債を発行せざるを得ません。国債は現在、約1,000兆円も発行している状態です。この国債を支払うのは、次の世代です。まだ生まれてきていない世代です。彼らが私たちの社会保障分を支払わなくてはならないのです。
ボストン大学の経済学者ローレンス・コトリコフ氏が、世代会計という計算方法を開発しました。一生涯のうちに手に入れる収入や税金から、一生涯のうちに支払う税金や社会保障費を全て差し引きすると、どのようなことが起きるのかという計算です。
日本の場合、高齢者は世代会計の収支はプラスです。例えば、私が平均年齢の86歳まで生きるとすると、4,500万円ほどの黒字になります。他方、若い方たちは千万円の黒字にもならないでしょう。もっと若ければ、プラマイゼロになる人もいます。さらに、彼らの子どもの世代は数千万円の赤字です。今度生まれてくる赤ちゃんは、生まれてきたときにすでに1億円の赤字を背負っている計算になります。いくら何でもひどすぎるでしょう。日本は世界でも最悪の状況です。
●国民の純貯蓄と政府債務が逆転すれば、経済破綻に陥る
さらに、GDPに対する政府債務残高の比率を見てみましょう。...