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世界のイノベーションの中心は中国へ移りつつある

2018年激動の世界と日本(10)中国・習近平首席の思惑

島田晴雄
慶應義塾大学名誉教授/テンミニッツTV副座長
情報・テキスト
習近平首席と安倍晋三首相(2015年4月23日)
習近平国家主席は、2017年10月の共産党大会で、国家主席の任期をなくすことを求めた。中国の経済成長率は鈍化しつつあるが、他方で世界のイノベーションの中心は中国へと移りつつある。習主席の狙いはどこにあるのか、公立大学法人首都大学東京理事長・島田晴雄氏が、習近平体制と経済成長の今後について解説する。(2018年1月16日開催島田塾会長講演「激動の世界と日本」より、全14話中第10話)
時間:10:57
収録日:2018/01/16
追加日:2018/04/22
カテゴリー:
≪全文≫

●習主席は重工業地帯を徹底的に底上げした


 ヨーロッパが大きなリスクを抱える一方、中国はどうなっているでしょうか。島田村塾では、2017年9月下旬、中国にも訪問しました。上海から北京に入りました。北京というと、スモークがかかっていて何も見えない印象がありますが、北京の空は雲一点ない青空でした。これは習近平国家主席のおかげです。10月に開催される共産党大会に向けて、1カ月ほど前から工場を全部ストップさせ、車も乗り入れ制限を課していたそうです。

 さらに習主席がすごいのは、共産党大会を成功させるために、経済成長率までいじってしまったのです。数字をいじったのではありません。東北三省や山西省、河北省の重工業地帯は構造不況に陥っていたのですが、それを徹底的に底上げしたのです。そうすれば全体の経済成長率も上がります。

 2017年の年初、立派なエコノミストである李克強首相は、次第に経済成長率が下がっていき、6.5パーセントほどまで落ちるのではないかと予測していました。しかし、習主席のテコ入れで持ち直し、2017年度は6.9パーセントまで上がったのです。必ず反動が来ることを承知で、力ずくで行ったものです。


●世界に誇る社会主義現代化強国を実現する


 習主席は共産党大会に向けて、国際関係においても無難を貫きました。南シナ海にも手を付けませんでしたし、チベットや台湾に対してもそうで、穏便に、波風が立たないように党大会まで過ごしたのです。こうして、彼の思うような一強体制ができあがりました。党大会は10月18日から24日まで開催されましたが、その冒頭、習主席が行った演説は3時間20分にも及ぶものです。

 テーマは、「小康社会の全面的完成の決戦に勝利し、新時代の中国の特色ある社会主義の偉大な勝利を勝ち取ろう」というものです。そこでは社会主義強国を築くと言っていますが、具体的な中身はほとんどなく、スローガンばかりです。

 「新時代」というのは、2021年を当面の目標に据えるという意味です。2021年は、上海の一隅で共産党が結成されてから100年目の節目に当たるからです。それまでに小康社会を全面的に完成させるというわけです。さらに、2049年は中華人民共和国の建国100周年に当たります。その節目の年までの30年間を2段階に分け、世界に誇る社会主義現代化強国を実現すると宣言しました。新時代の強軍思想を全面的に貫徹させ、国も世界も力で治めるというのです。

 最も驚くべきことは、習主席が通常10年である国家主席の任期を無期限にするよう主張したことです。彼は以前から「核心」(へいしん)と呼ばれ、最上の称号を得ていますが、永久首相になるという野望を打ち出したのです。さすがに今はまだ党幹部にも抵抗感があるようですが、それでも習主席は小学生にも「核心さま」と呼ばせています。

 そしてついには、憲法に習近平思想が書き込まれました。党大会時は党規約を改正するだけでしたが、とうとう憲法に実名で自らの名前を書き込ませたのです。現役の主席が実名で憲法に記載されるのは、毛沢東以来のことです。

 中央政治局の常務員を選ぶにしても、選ばれた人たちは皆、60歳以上です。65歳が定年ですから、普通は考えられません。江沢民氏も胡錦濤氏も、こうした委員を決める時には、50代の人を選抜していました。そこから後継者を選ぼうとするなら、60歳では遅すぎるからです。しかし習近平氏には後継者はいませんし、必要ないのです。自らが核心として、現人神になるつもりだからです。

 習氏が最も重んじているのは、党中央への支持と領導です。領導とは中国語で、「諭し導く」という意味です。実際、演説の中では毛沢東の言葉を引用し、「党政軍民学、東西南北中の一切の活動を党が領導する」と言いました。要するに、宇宙は全て共産党が率いており、その代表は習氏だというのです。


●今後、米中の新型大国関係が発展していくかもしれない


 他方、世界に対して中国は大国主義を顕示するというのです。鄧小平氏は立派な人で、「韜光養晦(とうこうようかい)」を掲げていました。つまり、力があると思っても、爪を隠して内部に力をためておこうという考え方です。世界は安心し、中国の大躍進、高度成長を認めました。ところが習近平国家主席の下で、中国は突然変わったのです。世界に向けて、中国は大国であると誇示しています。

 2013年、習主席とバラク・オバマ前大統領が、カリフォルニアで2日間にわたって8時間の議論をしたことがありました。習主席がオバマ大統領に提案したのは、米中で新型大国関係をつくろうということでした。オバマ大統領は、何を言っているのか理解できません。ところが、習主席は太平洋をアメリカと中国で仕切るつもりでいたのです。これが新型大国関係だというのです。

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