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トランプ大統領の最大の問題「ロシアゲート」

2018年激動の世界と日本(5)トランプのロシア疑惑

島田晴雄
慶應義塾大学名誉教授/テンミニッツTV副座長
情報・テキスト
トランプ大統領が抱える最大の問題は、ロシア疑惑だ。しかしその全貌は、メディアの報道を見ていても複雑でつかみにくい。公立大学法人首都大学東京理事長・島田晴雄氏が、今現在明らかになっている様々な出来事を明快に解説する。ことの発端は、ロシア政府関係者による米民主党へのサイバー攻撃だった。(2018年1月16日開催島田塾会長講演「激動の世界と日本」より、全14話中第5話)
時間:11:17
収録日:2018/01/16
追加日:2018/04/21
カテゴリー:
≪全文≫

●トランプ大統領の最大の問題はロシアゲートだ


 ドナルド・トランプ大統領の最大の問題はロシアゲートです。さまざまな報道が出ていますが、全貌はなかなか分かりません。まず明らかなことは、ロシアの政府関係者がサイバー攻撃を行ったということです。

 民主党の全国本部にサイバー侵入をして、外へ出るはずのないデータを引っ張り出してきました。そしてそれをアメリカ人の名前で、ウィキリークスにどんどん流出させたのです。ヒラリー・クリントン氏はとんでもない女で、うそつきで、国益に反して泥棒をしている、などといったことです。アメリカの大衆は新聞も読まなければ、テレビも見ません。皆ネットを見ているだけですから、ウィキリークスにそういう情報が流れると、かなり流布してしまいます。

 大統領選の選挙結果を見てみると、総投票数ではクリントン氏の方がトランプ氏よりも290万票多く獲得していたことが分かりました。しかし選挙人の獲得数では、トランプ氏が上手く中西部を固めたため、トランプ氏が304人、クリントン氏が227人という結果になりました。これは私の判断ですが、ウィキリークスでこうしたフェイクが流れたおかげで、おそらく少なくとも100万人はトランプ氏に投票したのではないでしょうか。


●アメリカの選挙制度は、いまだほろ馬車時代のもの


 アメリカの選挙制度は、いまだほろ馬車時代のものをそのまま使っています。州の選挙人を選んで、その選挙人に再び投票させるのです。日本では投開票が即日、遅れたとしても明け方には分かります。アメリカはあれほどITが進んでいるのに、いまだ昔の制度のままなのです。

 つまり、電話もない時代であれば、一人ひとりの投票数を数えていれば、時間がかかりますし、それを伝えるのも不可能です。そこで、州ごとに選挙人を決めるための投票を行い、過半数を取った政党が選挙人を総取りできます。例えば、ニューメキシコからカリフォルニアに伝えようと思うと、当時は1日がかりで行かなければなりませんでしたが、選挙人の獲得数だけなら電報を打つことができます。つまりジョージ・ワシントン時代の制度なのです。変えてもいい頃合いではないかと思います。

 スイングステートといって、人口が多く選挙人をたくさん持っている州がありますが、そうした州ではクリントン氏はたった7万票しか負けていません。しかし、選挙人の獲得数では304対227でした。


●オバマ前大統領はロシアに対して怒り心頭だった


 ウィキリークスでは、クリントン氏は「裏切者」「うそつき」「売女」と散々な言われようでした。ただし彼女は、そうでなくとも「リムジン・リベラル」とやゆされていました。選挙戦の宣伝会場に、白い大きなリムジンで乗りつけて、すぐに帰ってしまうため、お金持ちで嫌味だと評判が悪かったのです。彼女は実際には苦労人ですが、立場が立派になったため、嫌われたのでしょう。そこにロシアがウィキリークス経由でさらに悪いうわさを流し、皆が信じてしまいました。

 ロシアに対して最も怒り心頭だったのは、やはりバラク・オバマ前大統領です。2016年9月に中国・杭州でG20のサミットが開かれました。オバマ氏はウラジーミル・プーチン大統領を呼びつけ、大統領選へのサイバー攻撃をやめるよう警告しています。ところが、プーチン大統領は知らぬ存ぜぬで、結局ロシアゲートは続きました。

 実際、アメリカ政府は、民主党全国委員会に対するサイバー攻撃はロシア政府が指揮したものだと断定し、名指しで非難しています。さらに2016年12月29日には、ロシアの外交官35人の国外退去を命じました。一国の大統領が他国の外交官に国外退去まで命じるということは、よほどオバマ前大統領は確証をつかんでいたのでしょう。


●フリン氏による二重外交


 ロシアゲートの発端は、イギリスの情報機関OBのクリストファー・スティール氏が、トランプ氏とクレムリンの共謀について書いた文書でした。フランス語でdossierと呼ばれる、秘密文書のようなものです。スティール氏が17章からなる35ページの文書を書いたのです。

 これが2017年1月、なぜかFBIの目に留まり、その当時はまだオバマ政権でしたが、次期大統領のトランプ氏のもとに確認を取りにいっています。もちろんトランプ氏は怒り、フェイクだと主張していたのですが、この経緯がCNNの1月10日に夕方のニュースで流れます。かなり信ぴょう性の高い文書が出され、FBIが現在調査中だ、と。

 さらに今度はBuzzFeedというオンラインメディアが、文書の全文を何と画像ファイルとして掲載してしまいました。これは誰でも閲覧することができます。そうなると、大変な騒ぎになりました。1月11日の午前中は、トランプ大統領が初めて記者会見をする日だったからです。

 トランプタワーに100人ぐらい新聞記者が集...
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