●雄弁家であり敵を作らないという新たなスタイルの政治家
―― しかも(ハーディングは)雄弁家だったと。
東 そうです。
―― 自分の言葉で語れるという武器を、最大限生かすわけですよね。
東 そうですね。実際に今でもYouTubeなどにハーディングの演説が残っていますが、彼の演説の中で用いられている英語は、一般大衆の英語なのですよ。
―― なるほど。インテリの英語じゃないのですね。
東 品のある英語ではありません。当時の、同じ共和党のセオドア・ルーズベルトのスピーチも残っていますが、彼は東部のWASPの貴族的な英語を話しています。イギリス英語に聞こえるのですよ。
しかし、ハーディングの英語は、普通のアメリカ人の英語です。今でも通用する程度の英語なのです。あとは韻を踏むのが非常にうまくて、アメリカ第一主義やアメリカニズムを、深い哲学で説明するのではなく、比喩やさまざまなものを用いて、韻を踏んだ、覚えやすい形で説明したのです。
―― 比喩を使って、韻を踏むわけですね。
東 その雄弁術がラジオで流れると、人を惹きつけます。
―― なるほど。大学時代から雄弁家として有名だったわけですよね。
東 そうなのです。
―― しかも敵を作らないと。
東 敵を作らない。ここがすごい。
―― ここがすごいですね。やはりこれは事業に携わった人の発想ですよね。
東 そうですね。彼はたぶん自分の長所、短所を分かっていたと思います。彼の短所はエスタブリッシュメントの地盤、基盤がないのです。また看板もない。それを逆手にとって、地元の人脈、地元主義を前面に押し出しました。
そして、国政に乗り出した後は、地元以外に基盤がないので、敵を作らずに政界のドンから自分を認めてもらうように仕向けていったと思います。そうした姿勢が功を奏して、1920年の大統領戦には共和党候補として選出されたのです。
●ビジネスの経験や縁故主義を生かして結果を確実に出した大統領
―― 加えて、自分でビジネスに取り組み、新聞社という一つの事業体を経営していたために、経済をよく理解していました。
東 はい、分かっています。
―― 減税して、富裕層を優遇しながら、結果として失業率は半分になる。さらに、260億ドルあった負債も、全て返済しています。こうしたところからも、経済政策を肌感で分かっていたことがうかがえますね。
東 分かっていたと思います。
―― ここがすごいですよね。
東 そうですね。国内では自由化政策をとりつつ、貿易政策に関しては高いタリフ(関税)をかけました。つまり徹底的に国内優遇政策を取りました。その意味で、今のトランプ大統領の経済政策と非常に似ています。トランプ大統領も国内では自由放任主義で、富裕層を優遇しています。そして、実際に株価も上がっており、失業率も減っています。このように、ハーディングとトランプの共通性は経済面にも表れているのです。
実際にトランプ大統領の選挙キャンペーン中に、ハーディングではなく、カルビン・クーリッジ(第30代アメリカ大統領)を見直そうという動きが少しありました。共和党内でも、この時代を見つめ直すという作業が実際になされていたのです。
―― なるほど。第一次世界大戦が終息して、戦時特需で盛り上がっていましたが、徐々に不況に変わっていきますね。これは日本でも同様です。しかし、彼はそこをうまく乗り切るように進めていたんですね。
東 そうですね。
―― この貿易政策も、規制緩和であろうが規制強化だろうが、自国の産業を強くできれば良いという、きわめて明快な考え方ですよね。
東 分かりやすいですね。
―― ここがやはり秀でたところですね。ただマイナス面としては、セクハラ問題もありましたが、周辺にビジネス関係の人が増えてくると、スキャンダルがつきものになってくるということですね。
東 女性関係に関しても、トランプ大統領とよく似ています。ハーディングは、女性関係に関していわく付きの人で、妻に対するDV(ドメスティックバイオレンス)が激しかったといわれています。その点は彼の弱みですね。トランプ大統領の場合は何度も離婚しましたが、ハーディングの場合はずっと連れ添って、妻はじっと耐えていたということです。
あとは、縁故主義でオハイオギャングを連れてきたことにも弊害がありました。彼ら全員が清く正しい人だったわけではなく、その中には大統領利権を利用して私腹を肥やす人もいました。こうしたことが、後の石油がらみのスキャンダルにつながりました。
―― ただ、縁故主義の悪い部分はもちろんありますが、縁故主義には良い側面もあると思います。やはりワンチームとしてまとまって行動できるというのは強みです。実際に、クーリッジやハーバート・フーヴァー(第31代アメリカ...