●アメリカという発明の設計図が米国憲法
次に、独立宣言と米国憲法について説明します。独立宣言は、大英帝国に対する檄文なのです。民主左派のジェファソンが起草して、宗主国に対する抑圧された植民地の現状と新理念を訴えたものです。生命、自由および幸福の追求を含む不可侵の権利を主張しています。最後の幸福の追求権が最も重要で、これが米国精神の発揚を促します。幸福の追求は常にテクノロジーを通じて行うということなのです。
米国憲法は、政府の暴走抑制の必要性、および民主主義に対する深い不信に根ざした統治論理に基づいています。その結果、民主共和政という矛盾した政体が形成されました。民主主義で平等を約束しながら、実際には共和政的なエリートによる統治を想定しているのです。
イギリスでは当時から現在に至るまで、不文憲法を維持しています。しかし、米国は歴史を持たないため、憲法の明文化を必要としました。その結果、純粋に政治哲学のみに依拠し、米国憲法自体がテクノロジーともいえるような、人工的政体を発明しました。
先ほども指摘したように、米国憲法は発明の設計図のようなものなのです。米国憲法は、ホワイトハウス、議会、最高裁判所が自動的に力を抑制し合う、高度に機械的な制度を生み出しています。「三権分立」とも呼ばれますが、各機関が均衡と抑制をうまく保っているのです。トランプ大統領は独裁的などといわれますが、これは憲法を理解していない発言です。実は、トランプ大統領は、十分な力を持たない人なのです。その背景には、米国の建国の父が政府の暴走を最も危惧し、そのため非常に力のない政府を生み出したことがあります。米国憲法こそが、13独立州が連合して幸福を追求したときに利用したテクノロジーなのです。
●古いテクノロジーが限界を迎えると新たな発明が生まれる
テクノロジーには、有効期限ともいえる限界点が必ずあります。しかし、それゆえにいろいろな可能性というのをはらんでいるともいえるのです。テクノロジーの限界点は、時間と共に必ず訪れます。米国の場合は、まずテクノロジーを発明して、難局を乗り切ることが目指されます。しかし、新しく発明された政体は必ず限界に達して、次の発明が成功するまで停滞期間が発生します。新たな発明は、米国の国内外の政策を180度変えるものとして、突如出現します。
以前お話ししたウォレン・ハーディング(第29代大統領)の台頭は、南北戦争以降、登場した政府のあり方が限界に達した停滞期間と重なります。また、ハーディング以降の共和党支配の10年間も、実は停滞期間で、フランクリン・ルーズベルトの1932年の大統領当選がターニングポイントとなりました。実際にターニングポイントの大統領にありがちな傾向として、一気に国内を統一して、新たな政治のあり方を提示していきます。
1932年大統領選挙の結果を見ると、フランクリン・ルーズベルトはハーディング並みに支持を得て当選しています。赤と青の勢力図だけ見ると、ハーディングを凌いでいます。共和党候補支持の州が非常に少なく、フランクリン・ルーズベルトは全国規模で支持を受けていた人です。
トランプの台頭は、第二次世界大戦以降支配的だった、テクノクラシーという国のあり方が限界に達した停滞期間と重なっています。この意味で、トランプの時代は、ハーディングの時代と共通点を持っています。これはつまり、トランプ大統領の登場は、ターニングポイントではないことを示しています。トランプ政権はさまざまな混乱や矛盾を露呈していますが、彼は国内を統一できるような大統領ではありません。2期目で統一できるかもしれないという意見もありますが、私は時期尚早だと考えています。
国内を統一して、また新しいアメリカのあり方を導入できるのは、その次の2028年の大統領選挙の当選者だと考えています。まだそれが誰になるかは分からない状態ですが、ここではトランプはターニングポイントの大統領ではないという点を強調しておきます。
●米国停滞期にミスを犯しやすい日本は転換に備えるべき
最後に結論ですが、米国はテクノロジー信仰に立脚した発明なのです。発明には有効期限があり、限界点に達する前に、必ず停滞期間が存在します。また、新しい発明は、国柄を180度変えて、革命的エネルギーを放出します。そのため、ほとんどの場合戦争や大きな犠牲を伴います。例えば、独立戦争、南北戦争、第二次世界大戦などです。
日本は米国の停滞期に判断ミスを犯す傾向があります。ハーディング政権とともに、停滞期間の政権の例として挙げられるのがリチャード・ニクソン (第37代大統...