●米日・中の鍵を握るインド太平洋地域の諸国
―― 今後の対中国戦略を考える上で、日本にとって重要なのはアジア戦略というべきか、アジア諸国に対して今後どのように振舞っていくかというところになるかと思います。その点について、いかがお考えでしょうか。
中西 おっしゃる通りですね。今回の共同声明で、米中対立ほど明確ではありませんが、日米対中国という構図が非常にはっきり浮かび上がってきたわけです。この構図や対峙、安全保障上の組み上がり方、こうした秩序が決定的に動くのは、やはりアジア、あるいは東アジアです。現代の戦略的用語でいえば、「インド太平洋地域」ということになります。
それらの国々が米(アメリカ)につくか、中(中国)につくか。あるいは日米に傾くか、中国に傾くか。そのいずれかによって、その興廃が決まるというような、戦略的に非常に重要な国々がインド太平洋地域にはあります。
一つは、先ほど出てきた東南アジア地域。ASEAN加盟の諸国がどちらにつくか。端的にいえばそういうことで、それによって、アメリカが有利になるか、中国がなんとかしのいで、数年~10年後の力関係の展開、あるいは転換に向かい、アメリカをしのぐ超大国化につなげていけるのか。この勝負は、ASEAN諸国がどう動くかにかかっています。
それから日本に関していえば、朝鮮半島です。日米が有利に中国の抑止につなげられるかどうかは韓国の動向次第です。韓国が米韓同盟から距離を置いたり、同盟を清算したりして、中国に傾いていくようなことになれば、もう日本周辺では「勝負あった」というほど、大きな戦略的意味を持ちます。
―― そこで「勝負あった」ということですか。
中西 日本周辺では「勝負あった」と言ってもいいでしょう。それほど大きいですね。
―― なるほど。
●三つの色分けを持つアジアの対米中姿勢
中西 韓国がもしも米韓同盟に興味をなくした場合、おそらくは北朝鮮と急速に接近するでしょう。そうなると両者は等しく、あるいは韓国はより強く中国の影響下に入ることになるかもしれませんし、朝鮮半島の統一も進むかもしれません。その場合、日本は非常に危うい中立的立場に転換しなくてはいけません。
―― なるほど。
中西 アメリカから距離を置くという話になって、日本がたった一人で裸になってしまう。そういう悪夢のようなことになりかねません。
韓国の持つ、こうした戦略的重要性に、今の日本はもっと目を向けなければなりません。韓国が向こうへ行くか、あるいは米韓同盟という形で、日米の側に戻ってくるか。ここはやはり決定的に大きなことです。日韓関係という二国間関係にとらわれ過ぎた発想では、日本の生存はとても覚束ないような、そういう危機的な状況すら、シナリオとしては頭に入れておかなければなりません。
その意味で、韓国と東南アジアのASEAN諸国。先ほど、少しご説明を端折りましたが、ASEAN諸国と一口にいっても、ベトナム、シンガポール、インドネシアなど、特にベトナムとインドネシアには2020年、菅総理が就任直後に訪問されました。
―― はい。
中西 この両国にシンガポールも含めた3国は、何があっても中国に接近することはないと思います。
ただし、ラオスやカンボジア、そして今ちょうど燃え盛っているミャンマー、このあたりは中国に近づいていったり、中国の影響を一層強く受けるような形になるかもしれません。では、タイやマレーシア、そしてドゥテルテ後のフィリピンはどうなるのか。このあたりは、曖昧にしたままなので読めません。
こういうことで、ASEANも3つぐらいの色分けになる。韓国もいろんなシナリオが考えられる。これからのインド太平洋地域では、日本周辺もそうですが、米中対峙がどちらへ向かうかについて日本外交は非常に大きな責任を持ったわけです。もっといえば、新しいグローバルな世界秩序がどこへ向かうかにも直接関わってきます。
そのような責任の及ぶ当事者として、日本外交は韓国に対しても東南アジアに対しても、大きな役割を果たさなければいけません。大きな覚悟をもって、外交を展開していかなければならないのです。世界でも本当に主要な一流の外交大国として、日本の振る舞いが世界中から注視される。そのような、待ったなしの本番がやってきました。そういう時代になったという自覚を、ぜひとも多くの日本人に持ってもらいたいと思います。
●2027年の中国、その後の世界に向けて
―― かつて、例えば東南アジアなどから「日本が旗幟鮮明でないので、腹が固められない。日本はもう少ししっかりしてほしい」などという声が上がることもありました。今回旗を上げたというところでいくと、その旗を立て続けられるかどうか、日本にとってはだいぶ大きなことになりますね。
中西 そうで...