●日米首脳会談、日本は米側の強い要求を押し戻したのか
―― 皆さま、こんにちは。本日は中西輝政先生に、バイデン政権誕生を受けての米中関係、さらに日本の今後のあり方について、お話をうかがってまいります。中西先生、どうぞよろしくお願いいたします。
中西 よろしくお願いします。
―― まず、さっそく4月16日に行われた日米首脳会談のことでお聞きしたく思います。一部の論者からは「アメリカが日本にやや強めの要求や要望をしてきたのに対して、日本側からの押し戻しが見られた」という評価が出ています。また、今回は台湾問題が明記されたことで、日本としてはかなり強い打ち出しをしたのではないかという意見もあります。
中西先生は、今回の日米首脳会談について、どのように見ていらっしゃいますでしょうか。
中西 はい。まず、今おっしゃったように、日米首脳会談の中身については、アメリカがグイグイ押してきた。日本はそれをしのいで、なんとか妥協できる落としどころを模索し、かろうじてアメリカのペースを少し和らげることに成功した。このような捉え方が日本国内で流布していますが、私はこれは違うのではないかと思います。
―― そこは違うということですね。
中西 違う。むしろ間違いといってもいいでしょうか。あるいは日本政府が、外務省や官邸などを中心に、そういう画像やイメージを日本国内向けにやや意識的に流布した、あるいはふりまいた可能性は、確かに大いにあります。報道各紙を見てもそうですが、日米両首脳が合意した共同声明の中身を考えると、これはむしろ日本が相当踏み込んでいます。
―― 日本が踏み込んでいるということなのですね。
中西 日本が踏み込んでいる。かつてないほど日米が歩調を同じくしているし、特に対中国という点では、はっきりとした線を出した。日本側にためらいがあったかなかったかは分かりませんが、中身を見ると、よくここまで日本政府は踏み込んだものだというのが私の感想です。
●「日米2プラス2」より後退できない両国首脳
中西 後で話題に出るかもしれませんが、会談の1カ月ほど前に「日米2プラス2」(日米安全保障協議委員会)が行われました。外務・防衛二人ずつの閣僚が出席するもので、アメリカからアントニー・ブリンケン国務長官、ロイド・オースティン国防長官を招いて、3月16日に東京で行われています。
この時の共同声明と今回の首脳会談の共同声明を読み比べれば明らかに分かることがあります。3月に「2プラス2」というハイレベルの公式協議で出した共同声明の中身を、首脳会談で相当後退させていいのですか、ということです。主権国家の外交交渉として、そんな無責任なことができるのか。これは常識で考えれば、分かりますね。
―― はい。
中西 「2プラス2」よりも後ろへ下がるということは、日米同盟の緊密さ、あるいは抑止力を自ら傷つけてしまうことになります。これはやっぱり絶対にやってはいけない。それなら首脳会談を先にやるか、時期をずらせるか、そういう工夫があって然るべきです。1カ月しか間を置かずに首脳会談をやっているということは、「2プラス2」がその前さばきであり、その流れを受けて首脳会談をやるのだということがはっきりと分かるスケジュールです。
日本国内の報道や評価として「菅政権が踏み込んだ」、特に「対中国について日本がこれほど踏み込んでいいのか」というのは、国内、特に与党内や経済界に共通して危惧されていた違和感であったはずです。それをあらかじめ和らげるために、「アメリカに無理やり要求をされたので、日本はギリギリいっぱいでしのいだ」というイメージを、官邸主導の報道戦略として作りだしたのではないかと思います。
外務省も、やはりこの考え方に同調していた。なぜかというと、これを受けた中国が日本に対して、どれだけ厳しい反応を見せてくるかが予想されるからです。「アメリカの言いなりになって、許せん」、「台湾問題まで言及して、許せん」と中国政府が日本に強く出てくると、困ります。そこで外交上の配慮として、やはり「日本は嫌々ながらアメリカの主導権に従って、いつもよりは少し厳しい線で共同声明を出す。そういう首脳会談になったので、そこは一つご理解ください」という恰好を取る。そこまで政治的に非常に計算し尽くされていたのが、日本政府の首脳会談後の対応だったと私は思います。
●日本はついに対中国の「ルビコン川を渡った」
―― そうしますと、日本が押し込まれているのは一種の煙幕のようなもので、むしろ実態としては、例えば中国を含めた諸外国からすると、「日本は明確に旗を立てた」というような印象になるということでしょうか。
中西 そういうことです。それで間違いないと思います。
というのも、これは私だけが言っているわ...