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「日本防衛」を誓約したアメリカが懸念する経済安保問題

対中国戦略・日本の決定的な決断(4)対中国包囲網分断の可能性と経済安保

中西輝政
京都大学名誉教授/歴史学者/国際政治学者
情報・テキスト
今後の中国が「連衡策」を外交戦略の主軸に据えるとすれば、日本が注意すべきなのは、中国相手に目先の利を追い、「抜け駆け」による利益相反者との分断を起こすことだ。先般、中国企業による出資を受け、経済安保問題が浮上した国内大手IT企業の例では、引き続き政府の対応が注目される。(全6話中第4話)
※インタビュアー:川上達史(テンミニッツTV編集長)
時間:12:00
収録日:2021/04/23
追加日:2021/06/09
ジャンル:
≪全文≫

●対中国包囲網を分断する中国の外交戦略


中西 今の対中国包囲網を「合従」だとすれば、「連衡」策としては日米の分断、韓国やASEANを日米から分断していく、NATO諸国の中でドイツと英仏を分断していくなど、いろいろな方法が考えられます。包囲網を構成する各メンバー間の関係を切り離し、分断していくことが、包囲網に対する連衡戦術になります。中国による分断の外交の主たる戦略概念(コンセプト)は、ここに置かれるだろうと私は思います。

 そのとき、日本が注意すべきことは、経済中心の働きかけが日本の経済界に対してなされることです。日米の同盟国や、今対中国包囲網を形作っているとみられる国々の間で、お互いの国益が相反関係になるようなことを仕掛け、その隙間を突いてくるわけです。

 経済的な国益相反としては、例えば「おたくの企業には進出を認める」「そちらはアメリカと緊密に協力しているからダメです」というような経済利益による分断です。

 あるいは価値観に対する攻撃もあります。アメリカや欧米諸国は人権や民主化のようなことをうるさく言ってくるけれど、ASEANの、例えば「タイはそれでいいのですか」、「軍事政権が制裁されると言っていますが、それでいいのですか」と揺さぶりをかけて、アメリカと協力しようとするASEANの国を分断しようとする。あるいは日韓関係であれば、歴史問題を突いてくる。

 日米の関係については、日米同盟における「バードン・シェアリング(負担の分かち合い)」の問題があります。日本は防衛力を強化すると約束しているのに、全然着手しないで、現実的に防衛費を増やさないではないか。それでアメリカはいいのですか。日本はやはりここでも逃げるつもりなのだ、というような世論をアメリカのマスコミに流していく。どこが震源なのか分からない形で評論としてアメリカのメディアに流すような方法もありえます。

 また、地域の国際対立を誘発する。例えばヨーロッパの国々の間にも対立がありますし、オーストラリアとASEANの国々の間にも対立があります。あるいは、アメリカの国内を分断していくという戦略もあり得ると思います。


●日米分断の楔を打ち込まれる可能性がある


中西 事ほどさようにいろいろな形で、アメリカの対中国包囲網を分断するテクニックを、中国は持っているわけです。その意味でいうと、決して中国が不利になっているわけではありません。

 日本として気をつけなればいけないのは、今申し上げたように経済問題をめぐって日米間や日・ASEAN、日欧の間を分断する策に出られるのではないかということです。あるいは歴史問題、防衛費増強の問題、また在日米軍の負担割合については今年(2021年)から交渉が始まります。

 これらをめぐって日米分断の楔を打ち込まれる可能性があることに、あらかじめよく注意しておく必要がある。それには、中国が今後、連衡策に出てくるということを、コンセプトとしてしっかりと頭の中に置いておくことが重要だと思います。

―― テンミニッツTVのこれまでの講義でも中西先生にご指摘いただいた点ですが、第二次世界大戦後の冷戦時のソ連と比べても、中国の場合は世界経済にがっちり組み込まれる形になっており、軍事力も当時のソ連より強い部分がある。非常に強力な存在になっているので、非常に厳しいというお話をいただいていました。今のお話で、とりわけ経済でがっちり組み込まれている点が大きいのかと思いました。


●日米関係の重要性を肝に銘じる必要がある


―― 中国が大きな市場であるというのは、日本に限らずどこの国にも当てはまります。もしも抜け駆けのようなことが起こると、周りの国から恨まれて包囲網が一気に瓦解するようなことも十分にあり得ると思います。そのあたりのことでは、日本はどういう点に気をつければいいのでしょうか。

中西 やはり日米関係が日本の存立を支える命綱である。しかも、日本はそのことをしっかり認識した上で、今回、台湾問題であそこまで踏み込んだわけです。52年ぶりと言われますが、佐藤・ニクソン会談以来ですから、日中国交正常化前です。それ以後の日米首脳会談では、台湾問題に言及したことは一度もなかった。それをあえて踏み込んでいるわけです。

 ということは、アメリカから見て日本はもう無二の同盟国だ。今回の首脳会談自体、バイデン政権初の対面外交として日本との間で行うことに踏み切った。これは今やアメリカにとって最も重要な同盟国は、何の留保もなく日本になったということの証しだったと思います。

―― アメリカはやはりそういう象徴的な行動が、「好き」と言うと叱られそうですが、そのあたりのことに非常に意味を持たせますよね。

中西 そうです。これは好き嫌いとか、価値観を共有しているとか、安全保障などという声もありますが、そ...
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