●日本の国内世論はなぜしばしば間違えるのか
―― これまでテンミニッツTVで中西先生にお話しいただいてきた中、少し前の段階では「アメリカは一枚岩ではなく、親中派的な流れもあるので、まだまだどちらに行くか分からない。日本としては、アメリカよりも前に出てはいけない」というお話をいただきました。2020年の講義では、「もうアメリカは “point of no return”を越えた。この動きは変わらないだろう」という分析でした。
日本国内では、トランプ氏とバイデン氏の大統領戦の期間中、バイデン政権になれば一気に親中路線に振られるのではないかという予測をされる方もいました。ところが、結果を開けてみると、まさに中西先生がおっしゃったように、すでに“point of no return”は越えている。反中の動きは強まることはあっても、弱まっていない状況が見て取れます。そのあたりについて、いかがお考えでいらっしゃいますでしょうか。
中西 これには日本の国内世論、あるいは日本人の外交を見る目の特色がうかがえます。日本ではしばしば国内政治の文脈とアメリカの国内政治を両重ねにしてみる傾向があります。また、いろいろな国の外交をイデオロギー中心に考えてしまう傾向もあります。これらは、外交的思考が未熟というと語弊がありますが、外交に長い歴史的背景を持たない国にしばしばあることです。
いろいろな歴史を考えても、明治以来の日本外交は経験豊富だと思いますけれども、外交というものがそれ自体独自の領域で、独自の視点が必要だということを、私はもっと声を大にして言いたいと思います。
●外交と内政は別々の論理で動く
―― それは安全保障ということになるのでしょうか。
中西 いや、そうではありません。外交というのは、内政とはまったく別の論理、別の概念で動くものです。同じ政治家が扱うからといって一緒くたにしていいはずがない。そこが非常に大事なところなのです。
中西 特に日本でよく見られるのは、「バイデンは民主党。民主党はリベラルで左派だ。自分は保守の立場だから、バイデンの外交は非常に危うい。これは問題がたくさん出てくるぞ。日本は困ったことになるぞ」といった思考が割と簡単に出てくるところです。
あるいは「共和党は保守だから、日本にとっては危険な存在だ。日本の平和主義をぶち壊す存在かもしれない」という発想もある。日本国内の右と左が、互いにアメリカを見て評価する傾向が従来からありますが、これらはまったく当を得ていないわけです。
アメリカの力と国益、そして国益の一部である価値観をしっかり踏まえるのがアメリカ外交です。こうした考慮は独特で、外交にのみ大切であり、外交には是が非でも必要な考慮です。これらを前面に出して日本に迫ってくるわけです。このことをよく理解して、外交的思考を自立させようということを、私はずっと唱えているのです。
●アメリカ外交は「本来の姿」を取り戻してきた
中西 その上で、今回の首脳会談と3月に「2プラス2」で行われた日米の防衛・外交4閣僚の会談の二つを通じて、私の率直な感想としてはっきり言えることがあります。それは、「これでこそアメリカだ。これでこそ日米同盟だ。やっとアメリカは本来の姿に戻った」ということです。
本来の姿というのは、アメリカがソ連との冷戦時代に、あるいはさらにさかのぼって第二次大戦ぐらいまでの歴史でずっと示してきたアメリカ外交の根本的なあり方です。あるいはその本質をよく示したのが、冷戦期の外交でした。
一つには、同盟国と対等の関係で協力し、互いの最大公約数を導き出して、そこに同盟戦略の重点を置くこと。もう一つは、経済や価値観についても、力の国益を計算し、戦略的な発想を含めたリアリズム(現実主義)にのっとって、不可能なことは決してやろうとしないこと。決して傲慢になって周りの国を引きずり回そうというような一国主義を取らないということで、アメリカは、同盟国との非常に丁寧な外交によってこれまで成功してきました。また、いろいろな意味で、価値観は大切にするけれども、リアリティに徹した健全な現実主義の外交を行ってきました。この二つを、バイデン政権のアメリカがしっかり示し始めたことを感じています。
●アメリカ一国主義の弊害を示し始めた湾岸戦争時代
中西 トランプ政権の後、対中国方針では今のバイデン政権は連続していますが、今、申し上げた「これこそがアメリカだ」と私が思うアメリカは、湾岸戦争以来失われてきていました。
―― 湾岸戦争以来なのですね、
中西 ええ。湾岸戦争ではアメリカが先頭に立って、「わしについてくるものは、ついてこい。ついてこないやつは蹴とばすぞ。とんでもない目に遭わせるぞ」というような、脅しを含んだというと言い過ぎですが、政治的威嚇を込めた一国...