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次のトランプ劇場の見せ場は米朝首脳会談

トランプ劇場第三幕へ(2)統治回復から米朝首脳会談へ

吉田正紀
元海上自衛隊佐世保地方総監
情報・テキスト
政権発足時に急激な人事交代で機能不全に陥っていたトランプ政権は、その秩序回復をいかに行ったのか。そして2018年4月以降の最大の山場はどこにあるのか。元海上自衛隊佐世保地方総監で一般社団法人日本戦略研究フォーラム政策提言委員である吉田正紀氏がトランプ政権の構造と今後の目論見から解説する。(全2話中第2話)
時間:10:52
収録日:2018/04/20
追加日:2018/06/09
≪全文≫

●安全保障分野の政策決定秩序はジェネラルズによって回復した


 さて、マイケル・フリン安全担当補佐官がロシアゲートに関係した疑いで史上最短の任期で退き、替わって入ったハーバード・マクマスター中将が、まずNSC(National Security Council、国家安全保障会議)正常化およびオバマ政権で最悪であったといわれる国防省との関係改善を実施しました。しかし、ホワイトハウス全体ではバノン派とトランプファミリーとの権力闘争に端を発したメディアへのリーク合戦による混乱が続いていました。この権力闘争に敗れたラインス・プリーバス氏やショーン・スパイサー氏、アンソニー・スカラムッチ氏、そしてトランプ政権樹立の立役者であったスティーブ・バノン氏が政権を去りました。

 その最中の2017年7月31日、国土安全保障省長官であった元海兵隊大将であるジョン・ケリー氏が首席補佐官として就任しました。ケリー氏はホワイトハウスの中に軍隊的な規律を持ち込み、秩序を回復させました。そして、特にケリー氏とマクマスター氏、マティス氏という現役および退役の将軍で構成される「ジェネラルズ」(と私は呼んでいます)によって、北朝鮮問題と安全保障分野の政策決定に関する秩序は著しく回復しました。また、マクマスター氏はトランプ大統領から就任当時命じられていた、国家安全保障戦略の策定に努力を傾注することができるようになりました。


●2017年の秋以降、ガバナンスが回復したトランプ政権


 一方、こうした中にあっても、外交を担う国務省の情報収集と政策立案の機能不全は依然として解消されませんでした。変わって政権発足当初はFBI(Federal Bureau of Investigation、連邦捜査局)とともに反対側にいた情報コミュニティの一員であるCIA(Central Intelligence Agency、中央情報局)が、大統領の覚えめでたいマイク・ポンペイオ長官を担いで政権側につき、緊迫化する対北朝鮮政策と戦略策定に大きな役割を果たすようになってきました。

 いずれにせよ、2017年の秋以降、トランプ政権は政権発足時の混乱から抜け出し、秩序は回復し始めたのです。これがトランプ劇場第二幕です。題名を付けるなら「統治(ガバナンス)の回復」です。


●2018年3月から主役級の役者を次々に交代させた


 さて2018年3月に入り、D.C.ではさまざまな変化が急激に起きています。トランプ政権の人事では、6日に経済政策の司令塔といわれたゲーリー・コーンNEC委員長が辞任し、米朝首脳会談が8日に受諾されましたが、その直後にトランプ大統領はレックス・ティラーソン国務長官を解任しました。これが13日です。その公認にポンペイオCIA長官を指名しました。そして22日は先ほどお話しした「ジェネラルズ」の中核であった安全保障政策の司令塔であり、過去のどの政権よりも早く国家安全保障戦略を策定した中心人物だったマクマスター国家安全保障担当補佐官を解任させ、その後任へ強硬派で有名なジョン・ボルトン元国連大使を当てると発表しました。

 このように主役級の役者を次々と交代させる意図は何なのでしょうか。また、トランプ劇場第三幕のタイトルは何になるでしょうか。ここでトランプ大統領になったつもりで考えてみましょう。


●トランプ大統領は将来的な政権維持に繋がる中間選挙を見据えている


 トランプ大統領の当面の問題は、2018年11月の中間選挙で勝利し、上下両院で共和党多数を維持することだけではなく、上院で60票を獲得しフィリバスター(議事進行妨害)ができない状況を作ることです。しかしながら、アラバマ州の上院補選やペンシルバニア第18選挙区の下院選補選では、いずれも共和党候補が敗北しており、このままでは中間選挙が厳しいという状況はトランプ大統領も強く認識しています。

 それゆえ3月に入り、経済貿易戦争宣戦布告ともいわれる鋼・アルミに関する関税引き上げを宣言し、中国からの輸入品に対して50億ドルの関税を課す大統領令が署名されました。米朝首脳会談受諾後には、北朝鮮との事前交渉を活発化させてポンペイオCIA長官を北朝鮮に向かわせ、金正恩氏と直接会わせることも実現しました。トランプ大統領はこうした経済的外交的成果を挙げることで、過去の大統領にはできなかったことを実践する、というアピールをしたいのだと推測されます。

 中間選挙の敗北はトランプ大統領の残りの任期の足かせになる可能性は高く、議会との調整が一層困難になれば政策の実現は難しいままとなります。ひいては8年間大統領として偉大な米国の再興を果たすというシナリオの実現は不可能となります。まさにトランプ劇場のシナリオに大きな狂いが生じるのです。また下手をすれば、弾劾のような途中での上映中止もあり得ます。そのための役...
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