●財政破綻の回避を目論んだ関税発動
解放の日の戦略的意義を考察したいと思うのですけれど、まず解放の日というのは、米国システムの観点から見ますと、まさに米国システムを復活させるために無理やり作った一つのきっかけなのです。これは同時に経済戦争でもあって、世界に対してアメリカが経済戦争を仕掛けたのです。つまり、この第1発目をアメリカが撃ったということなのです。
しかし、ここで喫緊の課題として余り語られていないのですけれど、これはアメリカの財政破綻の回避というのもアジェンダとして彼らの中にあるわけなのです。
今年(2025年)は、約7兆ドル分の米国債の満期が到来して、従来の経済政策ではもう財政破綻は不可避であるという問題もあり、ここで関税の連発という荒業で意図的に市場を暴落させて、米国10年国債の利回りを下げることが真の狙いです。しかし、これは短期的なアジェンダなのです。つまり、関税で市場を暴落させて、そしてFRBに対して低金利を迫り、強引にドル安を誘導するという構図なのです。
対中デカップリングは、たしかに重要なのですけれど、今回の関税はどちらかというと二次的な意味合いを持っています。しかし、全世界に対して関税を発動したことによって、日本を含むいろいろな諸国を強引に交渉のテーブルに着かせて、中国の支配から隔離させるということも一つの議論としては挙がっていました。
例えば、ベトナムがすぐに関税ルールをトランプ大統領と交わしました。アジアの国では、おそらくベトナムが初めてだったのですけれど、こういう副次的な効果もあらわれていますが、対中デカップリングというのは、どちらかというと二次的なもので、やはりアメリカの財政破綻をいかに回避するか、これがもう彼らの頭の中にいっぱいあったということなのです。
●関税発動をめぐるホワイトハウス内の派閥抗争
実はこの解放の日の関税発動に関して、派閥抗争がホワイトハウスの中にけっこうあり、この派閥抗争を簡潔にまとめますと、MAGA(Make America Great Again)派とウォール・ストリート(WS)派の派閥抗争という見方もできます。このMAGAの派閥なのですけれど、これはどちらかというと思想的には経済国家主義、エコノミック・ナショナリズムという思想があ...