●トランプ支持を強固にした2018年秋の中間選挙
皆さま、こんにちは。お久しぶりでございます。「テンミニッツTV」でお話しさせていただくのは2018年4月以来になろうかと思います。最後にお話しいたしましたのは、『トランプ劇場第三幕へ(2)統治回復から米朝首脳会談へ』という題名であったと覚えております。
本日は、トランプ政権がオバマ政権から大きく変化させたといわれている安全保障政策や戦略、特に皆様のご関心が強い対中政策や戦略についてお話をさせていただければと思っております。それでは、早速、始めさせていただきます。
まず最初に「トランプ政権 Over View」ということで、トランプ政権の世界観(安全保障観)と安全保障政策、戦略の概略をご紹介します。私の場合はトランプ政権を「一幕」「二幕」「三幕」「四幕」と呼んでいます。そのぐらいコロコロ様相が変わるということです。そういったことも第三幕までの講義でお話しした記憶がありますので、そのあたりをつなぎながらお話をさせていただければと思います。
前回の「テンミニッツTV」で用いたのが、このようなスクリーンです。「2018.9以降の政治構造」と題して、中間選挙の勝利に向けてトランプ政権が必死になった過渡期の様子を図解しています。右上に「Generals」と書いてあります。トランプ政権の安全保障を担っていた退役海兵隊大将であるジョン・ケリー氏や、同じく退役海兵隊大将のジェームズ・マティス国防長官といった面々がここに入ります。
この中間選挙の後にはどうなったかということを、まず簡単にお話しさせていただきます。中間選挙の結果、共和党は下院で敗北しましたが、上院は共和党の勝利でした。この選挙の過程において、ドナルド・トランプ大統領とは立場を異にする、いわゆる「共和党穏健派」といわれる方々の引退が相次ぎ、トランプ氏に反対する共和党候補が敗北したりしました。
そのため、党内のトランプ大統領支持が非常に強固になり、以前は民主党と共和党の間にあった“トランプ党”とも呼ばれるトランプ陣営が共和党を飲み込むような形で一体化していきます。それが、中間選挙の後の状況でした。
●最もトランプ政権が機能していた頃に出来上がった「安全保障政策の基盤」
そのようにトランプ氏が政権の中でパワーを持つと、それまで彼に楯突いたり「是々非々」な対応を取ってきたりした人々の力が減少します。先ほど申し上げたマティス国防長官やケリー氏は「大人」といわれる人たちですが、トランプ政権にはそぐわないということで、2019年早々には政権を退くことになりました。そのため、右上の「Generals」層が消滅します。
その後、ケリー氏の後を継いだジョン・ボルトン氏も退任し、現在はロバート・オブライエン氏が国家安全保障担当補佐官です。今(2020年10月)もほぼこの形で大統領選挙を戦っています。一言で言うと、周りにはイエスマンしかいないという状況で、口の悪い人たちには「トランプ政権はまるでクレムリンのようだ」などと言われるほどです。
ただ、幸いにも今回の話の主題である「トランプ政権における安全保障政策の基盤」というものは、最もトランプ政権が機能していたといわれる2017年8月から2018年3月の間に一気に出来上がっています。
この時期がどういう時期だったかというと、スティーブン・バノン氏やラインス・プリーバス氏、あるいはショーン・スパイサー氏、アンソニー・スカラムッチ氏という、トランプ氏が大統領になる時に支えた若干偏った思想を持つ人々は政権外に排除されました。その代わりに、先ほど言ったケリー氏やハーバート・レイモンド・マクマスター氏が入ってくるわけです。また、国務省にはレックス・ティラーソン氏のような優秀な人も国務長官として活躍していました。
当時はトランプ氏そのものが共和党とも民主党ともメディアとも激しくぶつかるという非常に大変な時期でしたが、政権そのものの統治としては、絶妙に回復されていた時期でもあります。ですので、これがトランプ政権の安全保障策をつくった時の布陣ということになろうかと思います。
●「戦略の階層」に見る世界の動き
今からお示しするのは、日本でも出版されている本からの抜粋です。現代戦略の大家といわれるエドワード・ルトワック博士の『戦略論』から「戦略の階層」という図を抜き出しました。
これはもちろん理論的な話なので、このようにきれいに並ぶとは限りませんが、基本的には一番上にあるものが、その国の持つ歴史観やビジョン、つまり世界観です。
一般的には、国際社会のメインプレーヤーである「大国」...