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米国の「大国間競争時代の戦略」における3つの側面とは

米国の対中政策~戦略の現状と課題(5)コロナパンデミック前の分析

吉田正紀
元海上自衛隊佐世保地方総監/一般社団法人日本戦略研究フォーラム政策提言委員/米国支部長
情報・テキスト
アメリカ政府は、大国間競争時代の戦略を地政学・地経学・地技学の側面で捉えている。3つのアプローチを統合し、外交、情報、軍事、経済と、あらゆる手段を駆使して国益を守る必要性に彼らは直面しているのだ。中でも地技学である先端技術分野に比重をかけるべきだというのが、コロナパンデミック以前の見通しだったのだが…。(全6話中第5話)
時間:07:44
収録日:2020/10/07
追加日:2020/10/27
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キーワード:
≪全文≫

●「大国間競争時代の戦略」を3つの側面で見る


 今回は、ここまで述べてきたことを、米国が示した「大国間競争時代の戦略」における3つの側面から述べていきます。

 米国は、冷戦後の米国一極構造の「リスクのない世界(risk-free world)の中での戦略」を、米国が「より大きなリスクを負う戦略」へと転換しました。

 地政学的には、米国の安全保障と経済的な繁栄の両方にとっての大きな脅威であり、ユーラシア大陸の決定的な覇権的パワーとして、修正主義国家である中国、ロシア、イランがあります。彼らを目標に据えつつ、長期的な視点に立った場合の真の対象者が中国であることは、これまでお話ししてきたトランプ政権の外交政策からも明白です。

 大国間の競争には、政治、外交、軍事力を中心とした伝統的なパワーの優劣を競う「地政学(Geo-Politics)」のみならず、経済、通商、金融システムの優劣を競う「地経学(Geo-Economics)」や、さらにはビッグデジタルデータ、AI、ロボット技術といった将来の富と力を創出する先端技術分野での優劣を競う「地技学(Geo-Science and Technology)」という三つのアプローチを相互に関連づけなければなりません。

 また、それらを相互補完的に使用しながら行っているのが、まさにアメリカの2017年に策定された「国家安全保障戦略」中の「力による平和」です。ここでは、「外交、情報、軍事、経済と、あらゆる手段を駆使して国益を守る」と書かれましたが、まさにそうした総力戦を今、中国に仕掛けていると分析することができると思います。


●パンデミック前、米中間で最も緊張が高まっているのは地技学分野か


 大国間競争には、地政学、地経学、地技学という3つの側面がありますが、地政学的に重要である「政治、外交、軍事」というファクターのうち、比較的定量評価の容易な軍事力では、中国の驚異的な軍事力増強のベースにも関わらず、米国の軍事力はまだ世界第1位です。

 仮に将来中国が量的に追いついたとしても──最新の中国の軍事力レポートでは、海軍力ではもうすでに中国が一番になったと書いてありますが──質的な問題があり、実際にそれを使う作戦能力においても、米国を超えるにはまだしばらく時間がかかるでしょう。

 こうした軍事力増強を可能とする驚異的な経済成長にもかかわらず、中国はおそらく2030~2035年ぐらいにGDPで米国を抜くことは可能であっても、1人あたりの国民所得、いわゆる豊かさで超えるのは不可能に近いのではないか、とも言われます。

 昨年(2019年)生起したような米中貿易戦争からも明らかなように、もしこのままチキンレースが続けば、中国のほうがより大きな打撃を受け、経済成長が鈍化する、あるいはもっといえば鈍化「させる」ことは容易です。

 したがって、今最も米国と中国の間で緊張関係が生起しているのは、今回のシリーズ講義で詳しく述べた科学技術を含む地技学(Geo-Science and Technology)の分野ではないでしょうか。それが、COVID-19(新型コロナウイルス)のパンデミックが起こる前の私の分析でした。

 例えば、米国防省インド太平洋戦略の冒頭文には、「‥このインド太平洋地域のビジョンを推進するためには経済、ガバナンス、安全保障の間の重要なつながりを認識する統合的な取り組みが必要」と書かれています。これはいわゆる総力戦の必要性を示すもので、私のパンデミック前の分析とも重なります。


●政権交代があっても変わりそうにないアメリカの政策


 したがって、パンデミック以前の「米国の対中政策/戦略の現状と課題」をまとめると以下のようになります。

 まずトランプ政権が発足後、米国は同盟国に対して安全保障に関する機微な分野で米国と足並みをそろえることを求める傾向が強まっています。しかし、その根本にある対中警戒感は、もはやスタート時点(オバマ政権2期)のように国防総省内のみで持たれているものではありません。

 もうすでに米国全体に問題として認識され、他のことではあれほど対立しているトランプ政権下の連邦議会(上院下院議会)からも超党派の支持を得ています。しかし一方で、ルトワック教授のいう「大戦略」としてはまだ確立されていないというのが、私の認識です。

 ですから、まもなく始まる2020年大統領選挙によって政権交代が発生したとしても、この傾向は継続するのではないでしょうか。トランプ政権再選、民主党左派大統領(資料作成時はジョー・バイデン氏の指名前で、バーニー・サンダースのほうが有利ではないかという話がありましたが)のケースそれぞれについても精査してみました。

 前者では、トランプ大統領の「同盟」のコストに関する根強い主張があります。後者(民主党左...
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