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米中間で技術的優劣をめぐる戦いが先鋭化している

米国の対中政策~戦略の現状と課題(4)先端技術をめぐる米中競争

吉田正紀
元海上自衛隊佐世保地方総監/一般社団法人日本戦略研究フォーラム政策提言委員/米国支部長
情報・テキスト
エスカレートする米中の対立はその舞台を「最先端技術」、すなわちイノベーション競争に置いている。アメリカはいまだ自国を「主力(Leading Player)」と考え、中国を「挑戦者(Challenging Player)」もしくは「追随する競合(Pacing Competitor)」として自国の国益を害する存在と認識している。一方で、中国はすでに「新時代」を確信しており、中長期ロードマップを描いている。(全6話中第4話)
時間:08:28
収録日:2020/10/07
追加日:2020/10/27
ジャンル:
≪全文≫

●中国が目指すのはイノベーション強国か


 ここで、先端技術をめぐる米中競争について少し詳しく述べてみましょう。

 ペンス演説の約1年前の2017年10月、中国共産党全国代表大会において習近平氏が「近時代の中国の特色ある社会主義」と題する演説を行いました。

 その中で中国は、今世紀中葉までの第1ステップとして、2020年から2035年までに「社会主義の現代化を基本的に実現する(社会主義現代化強国)」としています。第2ステップは2035年以降今世紀中葉の2049年ごろを目標とし、「豊かで強く、民主的で、文明的で、調和が取れ、美しい社会主義現代化強国」を建設することとしました。

 第1ステップ完了までに達成すべき目標の中でも、第1番目に「中国の経済力及び技術力を急速に発展させ、世界におけるイノベーションのリーダーになる」ことが挙げられています。つまり、中国は第2ステップの目標となる経済的、軍事的、政治的、文化的な強国になるための基礎として、イノベーションが極めて重要であると認識しているわけです。

 これらの目標設定に続いては、経済政策及び安全保障政策の項においても、イノベーションの重要性が謳われています。例えば経済政策においては、インターネット、ビッグデータ、および人工知能(AI)の融合が、先進製造業には不可欠であるという認識を示すとともに、イノベーティブな開発がヒューマンキャピタルサービスの発展等を通じて、中国の世界的なバリューチェーンの中流から上流を目指すとともに、世界一流の先進製造業集団を育成するとしています。

 さらには安全保障政策においても、今世紀中葉までに「世界一流の軍隊を建設する」ことを目標とした上で、「我々は技術が重要な戦闘能力であることを強く認識し、主要技術の分野において独自のイノベーションを推進しなければならない」として、軍事強国の観点からもイノベーションの重要性を強調したのです。


●「国益に真っ向から対抗する」中国という米国の認識


 一方、米国は2017年12月発表の「米国国家安全保障戦略」において、「技術や情報が大国間の戦略的競争における主戦場である」という認識を示しました。まず、序章においては「情報(data)をめぐる争いは、政治経済、軍事面における競争を激化させている」との情勢認識を表した上で、以下としています。

1. 情報は米国の経済発展と国際社会における戦略的地位を決定づける
2. 米国の経済発展、敵対的なイデオロギーへの優位性確保、世界最高水準の軍隊の建設及び展開を維持するためには情報の力の活用が不可欠である

 さらに第2章「米国の(経済的)繁栄の促進」という二つ目の国益のところにおいても、主要な目標の一つとして、「研究・技術・開発・イノベーション分野をリードすること」を掲げ、先端技術の獲得が経済成長と安全保障の両分野において極めて重要であるという認識を示しています。

 特に情報科学、暗号化技術、自律技術、遺伝子編集、先進材料、ナノテクノロジー、先進コンピューティング技術、そして人工知能の分野に注力すべきとした上で、世界的な人工知能技術の急速な進展に対する危機感を示しております。

 また、本章のもう一つの目標である「(広義の)国際安全保障イノベーション基盤の促進及び保護」においては、中国をはじめとした競争相手が、サイバー攻撃をはじめとした非合法手段や、悪意のある合法的手段を用いて米国の知的財産権を侵害するとともに、さまざまな技術情報を窃取し、戦略的競争における米国の長期的な優位性を損なわせているとしております。

 さらに第3章「力による平和の維持」の冒頭においても、中国軍の近代化は米国における世界水準の大学機関をはじめとしたイノベーション基盤へのアクセスによって成し遂げられているとしています。このように、まさに米国の国益に真っ向から対抗する中国という記述が公にされているのです。


●アメリカの認識する国際競争と方法


 非常に多くの分野に触れてきましたが、以上を簡単に表したのが、この「先端技術をめぐる米国の競争戦略」の表になります。

 まず、彼らの認識は、自分たちはまだ「主力(Leading Player)」であり、中国は「挑戦者(Challenging Player)」もしくは「追随する競合(Pacing Competitor)」だということです。 “Pacing”には、「ヒタヒタと後ろからついてくる」といったイメージがあります。

 「Challenging Player」が目標とするのは「模倣と追随」です。こうした方法でアメリカに追いつこうとしています。では、アメリカの目標はというと「相対的優位性の維持・強化」です。平たくいえば、後ろか追いかけてくるものがついてこられないよう追随を阻止し、万一にも追い...
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