●「国際社会はアリーナ」と目するトランプ政権
皆さまもご存じの通り、トランプ大統領自身はツイッターでの短い情報発信は本当に得意なのですが、大統領候補の頃からあまり自分の世界観やビジョンを詳しく話すタイプではありません。私もほとんど見た覚えがないのですが、その中で数少ないテキストを探しました。
これは、トランプ政権で「国家安全保障戦略2017」の作成責任者に当たったマクマスター国家安全保障担当補佐官によるものです。彼は先ほど述べたように現職の陸軍中将ですが、2017年5月に「ウォールストリートジャーナル」に寄稿した長い論稿の中に、トランプ大統領の世界観について述べている箇所があります。
これによるとトランプ大統領は、オバマ政権が持っていた「世界がグローバルなコミュニティーである」というような国際協調的な世界観は持っていません。基本的に国際社会とは、国家、NGO、企業といったさまざまなプレーヤーが自分に有利になるよう働きかけるために戦場所、競う場所(アリーナ:競技場)だと認識しています。
これが大統領の世界観として紹介されているのですが、マクマスター氏をはじめとする安全保障の政策や戦略をつくる者にとって、これは国際問題の本質的な性質であり、トランプ政権はこの世界観に基づいて戦略を構築すると述べているわけです。
まさに私が学生の頃に熟読した高坂正尭先生の『国際政治 恐怖と希望』(中公新書)という本の中にある、「各国家は力の体系であり、利益の体系であり、そして価値の体系である。したがって、国家間の関係はこの三つのレベルの関係がからみあって複雑」だという記述を彷彿させる、極めてリアリスティックな世界観に基づいているのが、トランプ政権の一つの特徴です。
●トランプ政権の世界観を具体化する「国家安全保障戦略」
それでは、このトランプ政権の世界観がどのように具体化されたかについて見ていきます。スクリーンは、2017年12月18日に公表された「国家安全保障戦略」です。
まず共有認識として、中国やロシアを国際秩序の現状を力で変更しようとする「修正主義勢力」、北朝鮮を「ならず者国家」、イランを「地域の独裁者」と定義し、ISやアルカイダといったテロリスト、国際犯罪組織と合わせて、米国に対する脅威と...