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トランプ政権の地政学的アプローチの中心は「国家防衛戦略」

米国の対中政策~戦略の現状と課題(2)トランプ大統領の世界観

吉田正紀
元海上自衛隊佐世保地方総監/一般社団法人日本戦略研究フォーラム政策提言委員/米国支部長
情報・テキスト
「世界はグローバルなコミュニティーである」というのがオバマ政権の世界観だったが、トランプ氏のそれは「対立者同士が競うアリーナだ」というものだ。絶対的平和主義を旨としてきた日本人にはややもすると衝撃的なその世界観を、トランプ政権はどのように実現しようとしてきたのだろうか。(全6話中第2話)
時間:09:17
収録日:2020/10/07
追加日:2020/10/20
ジャンル:
≪全文≫

●「国際社会はアリーナ」と目するトランプ政権


 皆さまもご存じの通り、トランプ大統領自身はツイッターでの短い情報発信は本当に得意なのですが、大統領候補の頃からあまり自分の世界観やビジョンを詳しく話すタイプではありません。私もほとんど見た覚えがないのですが、その中で数少ないテキストを探しました。

 これは、トランプ政権で「国家安全保障戦略2017」の作成責任者に当たったマクマスター国家安全保障担当補佐官によるものです。彼は先ほど述べたように現職の陸軍中将ですが、2017年5月に「ウォールストリートジャーナル」に寄稿した長い論稿の中に、トランプ大統領の世界観について述べている箇所があります。

 これによるとトランプ大統領は、オバマ政権が持っていた「世界がグローバルなコミュニティーである」というような国際協調的な世界観は持っていません。基本的に国際社会とは、国家、NGO、企業といったさまざまなプレーヤーが自分に有利になるよう働きかけるために戦場所、競う場所(アリーナ:競技場)だと認識しています。

 これが大統領の世界観として紹介されているのですが、マクマスター氏をはじめとする安全保障の政策や戦略をつくる者にとって、これは国際問題の本質的な性質であり、トランプ政権はこの世界観に基づいて戦略を構築すると述べているわけです。

 まさに私が学生の頃に熟読した高坂正尭先生の『国際政治 恐怖と希望』(中公新書)という本の中にある、「各国家は力の体系であり、利益の体系であり、そして価値の体系である。したがって、国家間の関係はこの三つのレベルの関係がからみあって複雑」だという記述を彷彿させる、極めてリアリスティックな世界観に基づいているのが、トランプ政権の一つの特徴です。


●トランプ政権の世界観を具体化する「国家安全保障戦略」


 それでは、このトランプ政権の世界観がどのように具体化されたかについて見ていきます。スクリーンは、2017年12月18日に公表された「国家安全保障戦略」です。

 まず共有認識として、中国やロシアを国際秩序の現状を力で変更しようとする「修正主義勢力」、北朝鮮を「ならず者国家」、イランを「地域の独裁者」と定義し、ISやアルカイダといったテロリスト、国際犯罪組織と合わせて、米国に対する脅威と整理しています。

 その上で挙げられたのが、四つの死活的な国益です。一番目は「国土防衛」で、米国本土、米国国民、および米国人式の生活様式を保護します。二番目は「米国の繁栄促進」、さらに三番目は「力による平和」の維持、そして四番目として「米国の影響力を強化」し発展させると明示しました。

 スクリーンでは触れていませんが、国際情勢認識については、基本的にはトランプ大統領の世界観と同じく、競争的な世界になったと述べています。その上で、中国・ロシアは米国の力、影響力、国益に挑戦し、安全と平和を阻害している。また経済についても、より不自由で不公正にして軍事力を増強し、情報とデータを統制し、社会を抑圧し、影響力を拡大していると、極めてストレートに書いています。

 この中で重要なポイントは何か。米国主導で西側がつくってきた国際システムに競争相手を関与させて、害なく信頼できるアクターに変える。われわれの専門用語では「ステイクホルダー」と呼ぶものです。過去20年間、冷戦終了後から米国の取ってきた米国の政策、特に対中政策は誤っていたと明確に言い切っていることです。


●国家安全保障戦略を実現する「地政学的」アプローチ


 この国家安全保障戦略を実現するためのアプローチとして、3つ考えられると思います。まず一番上は、伝統的な軍事力を中心とした「地政学的」なアプローチです。これは、前回述べたマティス国防長官や現役・退役の将軍たちが中心となってつくったものです。

 中でも、一番上に君臨するのが「国家防衛戦略」です。2017年12月に国家安全保障戦略が発表された翌月には、もう国家防衛戦略ができています。この中では、国家安全保障戦略に掲げられた四つの死活的な国益を擁護するための国防省の11の目標を挙げています。

 その中には統合戦略として、軍事的優位性を全世界および広がる地域において保持する、とあります。

 インド太平洋地域、欧州、中東、西半球における地域的な力の均衡を優位に保つこと。同盟国を軍事的侵略から防護し、脅迫に対してパートナー国を支援し、共通の防衛の責任を公平に担う。国際的な公共ドメイン(宇宙やサイバー空間)をオープンかつ自由にする等が含まれています。


●対中戦略はトランプ政権成立以前から定まっていた!?

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