●学説を政治がどのように吸収し実行していったかを振り返る
―― 皆様、こんにちは。本日は曽根泰教先生に「政権と経済政策」というテーマでお話をいただきます。曽根先生、どうぞよろしくお願いいたします。
曽根 よろしくお願いします。
―― 今回のお話は、例えば経済学や経済学史、いろいろな経済政策が政治とどういう関係があるか、その分析ということでしょうか。
曽根 はい。通常、学説史というのは、その学問体系の中で語られることが多い。しかし、実際の政治がどういう政策を学問体系から組み込んで実施しているかは、通常政策といわれるわけですが、それを見るためには政治プロセス全体を見なければいけないという趣旨から、今日は経済政策を1つの事例として、政策をどう使っているか、そしてそれは政権や政治体制全体の中でどう位置づけたらいいのかというお話をしたいと思います。
―― そうすると、例えば経済学にしても、いろいろな立場の主張があって、甲論乙駁で、その学会の中では当然論争があったり、いろいろなやりとりがあったりしますが、その世界とはまた別に、それが実際政治に(使われて)いったときにどうなるかということですか。
曽根 学者が査読付きの論文で、レフリーからどう指摘されて、どちらが先に議論したかというのは学界内の話であって、例えば最初に論文を発表した人の政策が政策として実行されているかというのはまったく別問題です。だから、どの政策をどのように利用するかというのは、政治プロセスの中でしか考えられないのです。
今回は、学説史の中で有力な説を唱えた人を4人取り上げます。この4人はその中でも有名な人なのですが、それを政治がどう吸収して、どのように実行していったかという関係を、ざっくりですがお話ししたいと思います。
―― そうすると、当然、「社会科学」といわれますけれども、学問の世界からしても実際に社会がどう変わるのかというところになりますし、社会、政治の側からしても何を使えばより良くなっていくのかというところで、これはけっこう面白い組み合わせというところですね。
曽根 これは新しい分野で、実はあまり従来議論されてきたことがない領域だと思います。政策は政策で議論され、学説は学説で議論されます。議論されるのだけれども、政権とのつながりや、今日、一部申し上げる、例えばマルクス主義というのは学説ではなく、実は政治体制、革命を起こした政治体制そのものに影響があります。つまり、政権を取るという革命論のほうから見たほうが分かりやすいということでもあるのです。
―― では、まず先生に講義をいただいて、その後、質疑でいろいろとお話を伺いたいと思います。よろしくお願いいたします。
●政治体制まで変え得る学説の射程
曽根 まず日銀総裁人事が決まりました。誰に決まるのかについて、こんなに皆さんが関心を持った例はないと思います。ただし、アメリカの(例ですが)、最高裁の判事を誰にするか、つまりこの政権が誰を任命するかによって最高裁の構成が変わります。革新的になるのか、リベラルになるのか、あるいは保守派になるのかというのは従来からもいわれてきたことなのです。
アメリカのFRBの議長を誰にするか、今回の日銀総裁を誰にするか、リフレ派なのかどうか、あるいはオーソドックスな学説の人なのかという関心を持たれたというのは、ある意味でとても興味深い。それだけ政権が政策をどう打つかが、人を見るとだいたい予測がついてしまうというところになってきたというところで、今回のお話と関係あるわけです。
従来、学問でいうと、学説というのは大学、あるいは学界、一部の知的コミュニティ、(中でも)知的コミュニティというのは経済の領域でいうと、『フィナンシャル・タイムズ』を読んでいるとか、『ウォール・ストリート・ジャーナル』、あるいは『エコノミスト』という雑誌を読んでいるような人たちや、官僚であるとか、市場の関係者などとつながりがあって、そこの中の話だというのが一般的です。
ただし、政権にとっては、ある政策を採用するかどうかというのはけっこう重要です。利用できる学説なのか、あるいは現在、政策としてそれを打ち出すために有効なのかどうか。政権のほうから見れば、鵜の目鷹の目で探しているわけです。
しかし通常、学説は学説です。つまり、(例えば)科学革命はどうやって起こったのか。どの説が、どの発明が先なのか。あるいはこの人が最初に主張したと思われているのだけれども、その前に発表した人がいるかどうか。ノーベル賞を取るときに、誰が先なのかなどは非常に重要です。それから、科学革命はどのように起こったかというのは、学説の中の話の場合が多いのです。
しかし現実には、政策をどう打...