●なぜイギリスやアメリカから反グローバリズムが出てきたのか
曽根 では、なぜ反グローバリズム、脱グローバリズムというのが、一番最初にサッチャーやレーガン、つまりアングロサクソン系でグローバリズムや自由主義、新自由主義が唱えられたイギリスやアメリカから出てきたのか。ここはやはり難しい問題です。いち早く離脱したいと。例えばTPPにしても、アメリカが主張していたのに、もうTPPは嫌だ、1国主義でいくのだ、「Make America Great Again」だと。
そういう意味でいうと、やはりアメリカ、イギリスの中で分極化が非常に起こったのだと思います。特にお金持ちは非常に増えたわけです。いつか、(以前に)テンミニッツTVの講義の中で「エレファントカーブ」ということをお話ししたことがあります。エレファントの鼻に相当する部分は所得が20年間、非常に伸びたわけですが、伸びたその半分くらいはアメリカ人なのです。
ですから、お金持ちは非常にお金持ちです。ところが、取り残された「left behind」の人たちがいて、その「left behind」というのは20年間、今まではミドルクラス、あるいは中だったのですが、所得が伸びないままずっと来てしまい、世界の大勢の中で取り残されたという、その心理的な敗北感のようなものが、ある意味でトランプをサポートする人たち、あるいはボリス・ジョンソンというよりも、EU離脱を主張する人たちにつながっているのです。
だから、グローバリズムや新自由主義がスタートした国が一番早く離脱を声高に主張して、選挙でも、1期だけですがトランプが勝ってしまうというようなことが起きたのは、これまた考えるべきことです。
よく「分極化」というのですが、ポラライズ(分極化)したということで、なぜポラライズした国になってしまったのか。アメリカ自体にはポラライズの要素は昔からあります。南北戦争があるし、所得格差もあります。しかし、なだらかに豊かになっていく1950、1960年代の頃を知っている人間にとっては、こんなにいがみ合うのはなぜなのかということに1つの疑問があって、ここに関してはまだ解明が十分されていないのです。
―― これは、いわゆる学説的なものですね。経済学の学説的なものと政治的なものとの兼ね合いがここでもまた見えてくると思います。例えばニューディール政策の時に、これが1つの政治的基盤になっているということを先生にお話しいただきましたが、確かにケインズ主義的な財政支出の世界であり、それが政治基盤になりやすい。要するに政府からお金が出ていくので、それを流したところが自分の支持者になってくれるというのは、比較的、政治学的なやりとりではあるのですね。
曽根 まさしくinterest group(利益集団)であるとか、政治の多数派がどうやって形成されるか。いろいろな小集団の糾合体によって支持基盤を確保するというのは、昔からの常套手段なのですが、特に政府からのお金が流れる場合には、その支持基盤を拡大しやすいのです。
よくニューディールというと、ダムを造った例が小学校や中学校の教科書に出てくるのですが、それだけではなくて、ニューヨーク州の北のほうに行ったら、木が植わっている。これはニューディールの時に植林したもので、今でも残っているわけです。そういう点では、雇用をつくる、あるいはお金を流す、仕事をつくるというのは、政策的には非常に人を集めやすいし、支持を固めやすいのです。そういう基盤になって、先ほども話しましたように、アメリカの中央政府、連邦政府は拡大していくわけです。
―― それまでは本当に分権指向が強かったのですが、中央集権的な要素が強くなってくるということですね。
曽根 はい。
●サッチャーに代表される、マインドセットを変える政治手法
―― それと比較して不思議なのが、その次に出てきた小さな政府論です。これは日本でも「角栄的な政治」と「小泉的な政治」というような形でよく言われました。普通に考えると、これまでの政治資産を縮小してしまうような雰囲気もあって、実際こういう動きが出てきたのは、その論理だけで見ると非常に不思議な感じもするのですが、これはどのように支持が集まるのですか。
曽根 要するに、レーガンよりもサッチャーが代表です。つまり、基本的には社会保障は合意だったのです。ところが、政府に何でもかぶせるわけです。当時の言葉で「overloaded government」、負荷がかかり過ぎた政府です。負荷がかかり過ぎてしまったから税金は増やさなければいけないし、政策はたくさんやらなければいけないし、国民は政府に依存するのです。この依存体質というのは、もともとイギリス人が持っていた挑戦者意識とか、あるいは...