危機のデモクラシー…公共哲学から考える
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ハンナ・アーレントが追及した「政治における嘘」の問題
危機のデモクラシー…公共哲学から考える(4)アーレントの公共性論
政治と経済
齋藤純一(早稲田大学政治経済学術院政治経済学部教授)
ユダヤ人の女性哲学者ハンナ・アーレントは、ナチス政権下ドイツの状況から公共性の本質について思考した。他者から切り離され、孤立した存在としての「大衆」が生み出す全体主義に対して、アーレントが示した公共性論とは。複数性、政治における嘘と虚偽などをキーワードに、彼女の議論から引き出し得るアイデアについて解説する。(全6話中第4話)
時間:13分14秒
収録日:2024年9月11日
追加日:2025年4月18日
≪全文≫

●センセーショナルだった『エルサレムのアイヒマン』


 3番目のトピックは、ハンナ・アーレントが公共性についてどう考えていたかです。これも(重要なところを)ピックアップしてお話しいたします。

 彼女をご存じの方は多いかと思います。映画にもなりました。ユダヤ人の女性で、1933年、ヒトラーが(ドイツを)全権掌握するのを機に亡命します。フランスで一時、抑留収容所に入れられたこともありますが、難民として長い間、生きざるを得なかった。1951年になってアメリカの市民権を獲得できます。

 私は昔から(およそ)半世紀近くくらい読んでいると思うのですが、いまだに人気に陰りは見えません。新しい本も次々に現れています。それだけ魅力がある思想家だと思います。映画などもご覧いただければいいと思います。

 『エルサレムのアイヒマン』という、アイヒマン裁判のレポートを(アーレントは)世に送ったわけです(1963年)、『ニューヨーカー』という雑誌を通じて。

 アドルフ・アイヒマンというのは(ナチスの)親衛隊中佐ですが、ユダヤ人などの移送に対して責任を負っていた親衛隊の官僚がエルサレムで裁判にかけられました。(そのアイヒマンについてアーレントが書いた)レポートがユダヤ人共同体に対する批判も含んでいたということで、ジューイッシュ・コミュニティ(ユダヤ人共同体)からかなり総スカン状態に遭ったりします。

 でも彼女は、「私は何らかのアイデンティティにおいて、自分の思考とか判断を制約したりはしない。女性だからとか、ユダヤ人だからとか、そういうアイデンティティにおいて考えたり、判断したりはしない」という応答をしています。


●「大衆」の特徴は「他から切り離されていること」


 アーレントの同時代は、もはや公衆に信頼を託せる時代ではありませんでした。公衆(ザ・パブリック)から大衆(ザ・マス)に時代の主役は変わっているということです。これは他にも『大衆の反逆』を書いたオルテガ・イ・ガセットであったり、『孤独な群衆』を書いたデイヴィッド・リースマンであったりと、同時代にはさまざまな大衆論があります。

 アーレントが大衆の特徴をどこに見ているかというと、「他から切り離されていること」です。他とのコミュニケーションから疎外されてしまっている。孤立している。さらに...

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