危機のデモクラシー…公共哲学から考える
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デモクラシーとエリート主義の限界…立憲主義と共和主義
危機のデモクラシー…公共哲学から考える(2)民意は本当に反映すべきか
政治と経済
齋藤純一(早稲田大学政治経済学術院政治経済学部教授)
有権者の民意を等しく反映するデモクラシーは一見、望ましく思われるが、本当にそうなのだろうか。「専門家集団や特定のエリートが政治を主導すべきだ」という議論はさまざまにある。そうした意見、批判を参照しながら、デモクラシーがよりよく機能するための方法として、「ハイブリッド・レジームとしてのデモクラシー」について考える。(全6話中第2話)
時間:12分54秒
収録日:2024年9月11日
追加日:2025年4月4日
≪全文≫

●「ありのままの民意」は本当に反映するべきなのか


 そもそも、デモクラシーは民意を反映できるといわれます。それも正しいように思えますけれど、本当にありのままの民意を反映していいのかという疑問が出てきます。

 この点を実証的な研究にもとづき痛烈に指摘しているのが、文字通り『Against Democracy』(ジェイソン・ブレナン著)というタイトルで訳されている本です(邦訳『アゲインスト・デモクラシー』勁草書房)。

 本当にデモクラシーを信頼していいのか。2つぐらい理由があって、1つは、私たちが思っている以上に人々の政治的なリテラシーは低いということです。これは身も蓋(ふた)もない。本を見ていただきたいと思いますけれど、本当に身も蓋もないぐらい政治のことが分かっていないということです。これをそのまま政策に反映するわけにはいかないだろうということです。

 投票は権利の行使だけではないのです。他の市民に対する権力の行使という側面がある。したがって、不確かな情報、誤った知識に基づく判断で他者を支配するという装置にデモクラシーは半ばなってしまっている。これでいいのかというのがもう1点です。

 加えてもう1つ。これもある意味で当然なのですが、民主主義は選挙民の関心にアピールしなければいけないわけです。中長期的な課題はなかなかアピールしません。景気であったり、年金であったり、医療であったり、そういう身近なことに一般の民衆は関心を持つということです。気候変動などといっても、人々はなかなか関心を持ってくれないのです。

 そうすると、(民意を反映する)「いま・ここ」を超えた長期的な視点に立って判断を示しているわけではない。「いま・ここ」のわれわれを優先するということになってしまうということです。


●「エピストクラシー(知者による支配)」というアイデア


 そういう中で、「民意に任せておくとけっこうやばいことになる」という事態が、いくつかの面から明らかになってきました。とりわけ気候変動がそうだと思います。取り返しがつかないダメージを私たち、あるいは私たちの将来世代に対して及ぼしてくる。もうすでにティッピング・ポイントを超えて、変化が激烈になってきました。後戻りができないような重要な選択を民意に委ねていいのか。やはりそうではなくて、専門的な知識...

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