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COVID-19が原因のトランプ大統領が遂行する「3つの戦争」

米国の対中政策~戦略の現状と課題(6)4つのアプローチと3つの戦争

吉田正紀
元海上自衛隊佐世保地方総監/一般社団法人日本戦略研究フォーラム政策提言委員/米国支部長
情報・テキスト
コロナパンデミック以降、アメリカの対中路線は4つに分けることができる。「宥和」から「集団的抵抗」「包括的圧力」「体制変更」まで、現状把握の差によりアプローチの方法も変わってくるからだ。米中間の対立は加速され、競争から闘争へ、質的変容の可能性さえささやかれている。トランプ氏が遂行する3つの戦争は、事態をより苛烈にするものだ。(全6話中第6話)
時間:11:54
収録日:2020/10/07
追加日:2020/10/27
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キーワード:
≪全文≫

●「宥和」か「体制変更」か、考えられる両極端の路線


 前回お話した情勢から現在はどのように変化したかをお話しする前に、一つここで視点を変えてみましょう。

 この資料は、CSIS(米戦略国際問題研究所)の優秀な研究者が書いた「After the Responsible Stakeholder, What?(責任あるステークホルダーの後に来るものは何か?)」と題する図表です。

 アメリカが20年間取ってきた路線、要するに中国がアメリカのつくった国際秩序の中でいいほうに変わってくれる可能性については、もはや「ない」と申し上げました。では、その後としてどんな方法があるのかということです。どちらに行くかというよりは、いろいろな人に話を聞き、いろいろな文献に当たると、可能性としてこのような範囲に収まるだろうということで、その枠としては上から「想定(前提)」「勝利の法則」「核心的要素」と分けました。

 まず、「宥和(Accommodation)」というアプローチの仕方があります。その前提に「中国は理性的でリスク回避的」とあるので、アメリカと戦うようなリスクは負いたがらない。そして、米国の優位は劣化傾向にあります。しかし、協力の連鎖は可能ですから、中国が強大化する前に取引するのが「勝利の法則」になります。そのとき、最も問題となるのは「二国間関係の質」である、というのが左端の「宥和」のアプローチです。

 これとまったく逆なのが、右端の「体制変更(Regime Change)」です。ここではもはや、中国は現状変更的でリスク受容的なので戦争を辞さないと見ます。さらに、米国の優位性はどんどん無駄にされていく。そうはいっても、さすがに核戦争まではないが、それでも共産党は排除可能ではないかという前提に立っています。

 そうであるならば、手遅れになる前に共産党を打倒するようにして、レジームチェンジに向かう。ただし、これは中国共産党による権力の掌握度にかかっています。最近のトランプ政権の各閣僚の演説などを見ると、習近平体制や中国共産党一党独裁に対する姿勢は、どちらかといえばこの方向へ傾斜しかけているのではないかと感じます。ポンペイオ国務長官なども、2020年7月の演説では習近平氏を名指しで「全体主義の信奉者だ」と批判しています。


●現実的には「集団的対抗」か「包括的圧力」か、ハイブリッドな組み合わせも


 あとの2つは何かというと、まず「集団的対抗(Collective Balancing)」です。中国は現状変更指向でリスク回避的、地域諸国は中国に対抗する胆力と能力を持っていると見なします。そうであれば、対中連合で中国を抑止することは可能だとするものです。勝利の法則は、対中連合を堅持し中国を穏健化させること。核心的要素は、米中関係下での地域諸国の立場です。一番分かりやすい例は、南シナ海をめぐるASEAN諸国でしょうか。ひょっとすると韓国も、ここに含まれるかもしれません。

 もう1つが、「集団的対抗」と「体制変更」の間ぐらいに位置する「包括的圧力(Comprehensive Pressure)」です。中国は現状変更的でリスク受容的であり、中国の強大化に地域諸国はなびくと見ます。そのため、中国の力が減速しないかぎり米国の地位は低下してしまいます。そこで、中国の秩序変更前に中国を弱体化させるべきだと考えます。ここでは、米中のパワーの相対比が核心的な要素になります。

 以上、理論的にはこういった4つのアプローチがあります。私が見るところ、一番左の路線(宥和)はおそらく民主党政権になろうとトランプ政権が続こうと、まずないであろうと思われます。この時点でマティス氏などが主張しているのは、「集団的対抗」といわれる同盟国とともにアプローチする方法です。

 あるいは、もう少し進むと「包括的圧力」です。現在、ポンペイオ氏が日米豪印などの連携を日本で進めていますが、それがこの形に近いのかと思われます。

 これらはもちろんハイブリッドな形での組み合わせになることもあるでしょう。そのときどきの中国の情勢により、少しずつやり方を混ぜながら進むということもあろうかと思っています。


●競争から闘争へ、米中関係は質的に変わるのか


 さて、先ほど述べたように、米中関係はコロナパンデミック以前から大国間競争だったのですが、COVID-19がパンデミックとして広がって以降、この流れが加速されている気がします。同時に、米中は「相手より優位を取る」という競争から、今や「相手を排除する」もしくは「叩きのめす」闘争へと、質的に変容するおそれがあると思っています。

 両国の国民感情レベルの急速な悪化もあれば、政治外交レベルで、米政権中枢が競争よりも価値を中心としたイデオロギーによる冷戦構造を主張しているきらいがあります。これ...
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