●「アゴーン」の文化と古代ギリシア
世界哲学を考えるにあたって、西洋哲学の原点あるいは起源といわれる古代ギリシアに遡って、まずそこを捉え直そうと考えているということで、前回は「観想(テオリア)」についてお話ししました。
今回は、もう一つの重要な古代ギリシアの特徴、現代までの哲学をつくってきた大きな特徴について考えていきたいと思います。こちらは古代ギリシアに独特というよりは、他の文化にも見られるものですが、そこをおさらいしていきたいと思います。
それは「アゴーン(Agon)」という単語で示されることです。アゴーンというのは競争や争い、闘いということですが、戦争ではありません。ここが面白いところです。競争は、戦争とは少し違います。殺し合うわけではない。
どういうものが分かりやすいかというと、運動会でもいいですし、競技会のような感じがアゴーンの一つです。つまり、誰が1番で優勝するか、場合によっては誰が2番、3番かというのを競うことです。「競争」の「競」という字は「競う」ですが、競い、争う。これが、なんと哲学という起源にかなり強く関係しているということになります。
アゴーンという単語はギリシア語の単語で、これはギリシア文化を特徴づけるものといってもいいものです。もちろん、どの文化にも競争はさまざまにありますが、ギリシアはここに非常にこだわった文化だといわれています。例えば、ホメロスの叙事詩を読むと、『イーリアス』ではアキレウスやオデュッセウス、アガメムノンやアイアースなどの英雄が戦争の中で「俺のほうが」「俺のほうが」という具合にみんなで競い合い、力を発揮するわけです。
●オリンピックも民主政も「競争」?
古代ギリシアの哲学もよく考えてみると、紀元前6世紀、5世紀、4世紀と、さまざまな哲学者たちがお互いに競い合い、一人の力ではなく全体として新しい動きをつくってしまった。そういう意味でも、このアゴーンは一つのキーワードになりそうです。しかし、哲学自体が一種のアゴーンであるという考えとして、「哲学というものは発展していくのだ」「それは一種の考え方の競争なのだ」ということが大きな要因になるということを、少しお話ししていきます。
ギリシアのアゴーンの一番の典型はオリンピック競技です。オリンピックは紀元前700年代ぐらいから行われていたと伝承され、4年に1回ず...