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二重外交のリスク、やってはいけない「米中両方にいい顔」

グローバリズムの“終わりの始まり”(4)日本がやってはいけないこと

中西輝政
京都大学名誉教授/歴史学者/国際政治学者
情報・テキスト
世界がグローバリゼーションの終わりへと進んでいる中、非常に重要となってくるのは価値観である。では今後、「新しい価値観」の世界を築くため、日本はどのような役割を果たせばいいのだろうか。ロシアや中国が今後どうなるかという見通しも含め、日本の在り方について考えていく。(全4話中4話)
※インタビュアー:川上達史(テンミニッツTV編集長)
時間:15:25
収録日:2022/05/30
追加日:2022/08/05
カテゴリー:
≪全文≫

●「新しい価値観」の世界の構築へ、日本が果たすべき役割とは


―― 冷戦後のグローバルの時代は、経済がメインという色彩が強かったように思います。ですが今後は、一面においては価値観(どういう価値を打ち出していくか)が大事になり、もう一面においては先生がご指摘になったような戦略性(どういうような構えで対峙していくか)が重要であり、その両面が大事になってきます。これまでのように、単純に世界に進出する、利益最大化を求めるなどといった話ではなくなってくるという理解でよろしいのでしょうか。

中西 そうですね。価値観の重要性をしっかりと把握したら、おのずと戦略性は生み出されると私は思います。ですから、単純に平面的に考えると、もしかしたら二律背反的に感じられることがあるかもしれません。それは先ほど(第3話)も言ったジレンマにもつながる。成熟した外交政策、知恵、賢明な外交ということで考えると、そこがやはり一つのネックにはなると思います。

 ただ価値観の重要性をしっかり認識したら、最も大きな脅威、対峙すべき対象は何なのかということを考えることは大変に戦略的であると同時に、それは価値観の選択をしているということでもあるわけです。ですから、自由な個人による民主主義と法の支配が非常に重要な価値だと考えるなら、われわれから見ると未熟な民主主義国であっても、あるいはなかなかその方向が見いだせないほど遅れた封建的保守主義的な国であっても、少しでもその要素や萌芽を持っているならば、それをよりよき方向に導くことが、日本の役割として非常に大事な選択だと私は思います。

 場合によっては、アメリカは「それはダメだ」ということで、性急に非常に高い水準の価値観を要求するかもしれません。よくよく考えれば日本は戦後、われわれにだって、そういった時代があったのではないでしょうか。そのような点でいえば、日本は「新しい価値観」の世界を築き、国際社会全体を穏便な形でまとめていくうえで、大変重要な役割を担っていくべきではないか。そういうめぐり合わせになっているのではないでしょうか。

 そのためには、欧米諸国を説得するだけの論理を持ち合わせなければなりません。そこはこれからの日本の隠れた、しかし、一番チャレンジングな課題だと思います。


●ポスト・プーチンの時代にあり得る再民主化というプロセス


―― その点でいいますと、中国はそれこそ、もともとはソ連陣営の非常に強大な国であったものが、米ソ対決の中で、キッシンジャー外交をはじめ、ニクソンの訪中等々があり、いってみれば西側に取り込まれる形になりました。その後、西側の資本が次々と入って、結果として今のような状況が生まれたともいえます。それに対抗するために今後、権威主義的な国も支えていくということになった場合、いってみれば「第二の中国」ができてしまう危険性もあるのでしょうか。

中西 「第二の中国」が出来上がってくる可能性はまずないと、私は思います。

―― なるほど。

中西 それは「規模」という点からもいえると思いますね。

 インドが中国のような全体主義国家に変貌することがあり得るのか。これはないと思います。インドはしっかりと民主主義が根づいた国ですから。確かに今のモディ政権は、やや保守強硬主義で、カシミール地方などではものすごく武力弾圧して、地方自治を侵しています。ですが、いずれ政権交代するでしょう。

 経済発展によって、より強硬な全体主義になっていく可能性を持っているのは、やはりロシアか中国です。これは地政学的脅威、戦略的安全保障の問題としての脅威という点で、私の時代観でいえば、今後10年ほどは中露という両国が、安全保障上、国際社会の大きな問題を及ぼすような脅威の源であり、非常に不安定な世界秩序、新冷戦的状況をもたらしてくることは間違いないと思います。

 しかし、その先はどうなるか。これはなかなか予測が難しいのですが、あえて私の希望的観測も含めて申し上げれば、ロシアはポスト・プーチンの時代に入ってくると思います。10年後のロシアは、混乱は続いていたとしても、再び民主化に向かい、豊かな社会を求める。そういった民衆の大きな歴史を動かす力、もの言わぬ大衆の力というものが、ロシアにもう一度戻ってくると思います。

 どれだけ混乱を生むかは分かりませんが、ゴルバチョフ、エリツィンの時代の民主化を伴った市場経済の西側依存をもう一度、深める時代になってくるでしょう。それはおそらく時間がかかるし、混乱を伴うと思いますが、再民主化というプロセスは長期的あるいは超長期的に、あり得ると思います。


●冷戦後、日本は中国を見誤り続けてきた


中西 中国はもう少し難しいでしょう。冷戦終焉後、共産主義というものを、われわれは見誤ってきたと思います...
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