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「国際収支発展段階説」とは何か。カギを握るのは中国

円安の構造的メカニズム(2)国際収支発展段階説とこれからの日本

高島修
シティグループ証券 チーフFXストラテジスト
情報・テキスト
現在起こっている円安には、国内外の状況が混じり合った構造的な要因がある。そのことを深く理解するためには「国際収支発展段階説」を参照するのが有効だ。この説と照らし合わせたとき、日本は今どの段階にあり、どのように変化していくのか。諸外国の人口動態をふまえて解説する。(全4話中第2話)
時間:16:43
収録日:2022/11/15
追加日:2023/01/04
カテゴリー:
≪全文≫

●「国際収支発展段階説」で分析する日本と諸外国の経済状況


 円安の問題を取り上げておりますが、ここでは「国際収支発展段階説」という考え方に基づいた現状についてお話ししていきたいと思います。

 前回は、足元で起こっている円安が持続するかどうかは別にして、構造的な要因の反映であるということをお話ししてきたわけですが、それをこの国際収支発展段階説に則って考えてみると、比較的理解が容易になってくるかと思います。

 この国際収支発展段階説は、もともとクローサーという人が考えた考え方です。要は、ある国の国際収支が、最初は貿易赤字のような非常に赤字の大きい状況から、しだいに貿易黒字、経常黒字に転じていって、そこからまた貿易赤字、さらには経常赤字に転落していくという考え方なのです。

 この国際収支発展段階説においては、6つの段階が想定されております。第1段階が「未成熟の債務国」ということで、これは(スライドでは)赤字を黒の▲で示していて、国際収支の黒字を+の印で示しております。この未成熟の債務国の段階というのは、今でいうアフリカのような国をイメージしてもらえばいいかと思います。輸出競争力もなくて、貿易収支が赤字であり、あとは海外から借金をしていますので、この借金に伴う利払いのような債務の利子を返していかないといけないですし、所得収支の黒字も赤字になっていて、経常赤字が非常に大きい状況です。この経常赤字をファイナンスするために、投資収支が黒字になっています。これは海外からお金が入っているからです。海外からお金が入るがゆえに、繰り返しになりますが、所得収支においてはその利子の返済が行われますので、赤字が増えていくということになります。

 第2段階は「成熟した債務国」ということで、輸出競争力がついて、貿易収支は黒字に転換するわけなのですが、そのために借金した利払いの負担が大きいので、所得収支の赤字が大きくなっていて、貿易黒字から所得収支の赤字を差し引いた経常収支が赤字の状態になっており、まだこの段階においては、投資収支がプラスになって、海外からお金を借り続けているような状況になっています。

 第3段階が「債務返済国」ということで、十分に貿易収支の黒字が大きくなった結果、所得収支の赤字を補って、経常黒字はプラスになります。一方で、投資収支において、債務の返済が始まりますので、投資収支が小幅なマイナスになってくるということです。

 第4段階が「未成熟の債権国」ということで、貿易収支のみならず、所得収支も黒字化していった結果、経常収支の黒字が極大化します。その分、債務返済が進みますので、場合によっては、対外的な純資産を積み上げるということで、投資収支はマイナスになります。赤字になるということです。

 ここから第5段階に入っていきますと、「成熟した債権国」ということで、アメリカやイギリスが経てきた道ということです。貿易収支が悪化して、ただ、過去に稼いだ対外純債権があったりしますので、所得収支から利払いを受け取っており、経常収支はまだ黒字で、投資収支は赤字です。

 さらに第6段階にいきますと、「債権取崩し国」ということで、貿易赤字がだいぶ大きくなって、所得収支の黒字では補いきれないので、経常収支自体も赤字化して、この経常収支の赤字をファイナンスするために、再び投資収支が黒字になってきます。こういった変遷を経ていくという考え方なのです。

 実は日本に先行しているアメリカやイギリスは、この第6段階まですでに来ております。一方で日本は、1970年、為替相場がちょうど変動を始めたあたりから、経常黒字が極大化する第4段階に位置していたわけです。今となってみれば、2011年の東日本大震災前後から、貿易収支が赤字化するようになってきておりますので、日本はこの第4段階から第5段階に転落した可能性があるということです。

 では、日本に先んじて、第5段階、第6段階にいったアメリカ・イギリスはどうであったかというと、例えばアメリカにおいては、経常黒字が極大化していた第4段階に1970年までいたわけですが、ちょうど日本が第3段階から第4段階にステップアップしたあたりで、アメリカは第4段階から第5段階にステップダウンするということが起こったのです。

 この時に起こったのが、1971年の金ドル交換停止、ニクソンショックでした。さらにアメリカは、第5段階から第6段階にステップダウンするということになりますが、それが起こった1980年代には、1985年のプラザ合意によるドル安誘導を行ったということで、要はアメリカのような基軸通貨国でも、第4段階から第5段階、第5段階から第6段階にステップダウンするときに、かなり経済情勢としては厳しい状況の中で通貨安を経験したというこ...
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