●「安いニッポン」以前にあった「高いニッポン」の問題
今回のシリーズでは円安問題についてお話ししておりまして、前回、前々回とも、構造的な観点から円安というものを取り上げてきました。こういった中で、2022年のこの円安加速によって、「安いニッポン」とか、「悪い円安論」というものも台頭してきていますので、それについてどういう考え方を持っているのかを少しお話しさせていただきたいと思います。
結論からいいますと、私は悪い円安論にはかなり違和感を持っております。2022年に加速した円安というのは、10年、20年単位で見ると、日本にとっては比較的ポジティブな影響を持ってくるのではないかと考えております。どうしてそのように考えているのかを、時系列的に順を追ってお話ししていきたいと思います。
「安いニッポン」というものがだいぶ話題になっていますが、そもそも「安いニッポン」の前に「高いニッポン」があったのだということを認識する必要があるのだということです。
「高いニッポン」というのは、いうまでもなくバブル前後までの日本の状況であり、何もかもが高かったわけです。一つは土地の値段が高かったわけで、今、この講義を撮影しているオフィスから皇居が見えるのですが、日本のこの皇居(の値段)でアメリカのカリフォルニア州が買えたという時代です。他には、山手線(の値段)でアメリカ全土が買えたというような時代で、まず1つは土地の値段が高かったということです。
2つ目は、この後お話ししていく通り、日本の株価が高かったということです。後は流通構造も高く、日本人の価格(1人あたりGDP)も非常に高かったわけです。
どれくらい高かったのか、このIMF(国際通貨基金)の資料に基づき、1人あたりGDPを見てみると、1990年代前半に日本の1人あたりGDPが4万ドルを超えていて、当時3万ドルを下回っていたアメリカをはるかに上回っていたということがお分かりいただけるかと思います。
重要なポイントは、これはドル建てで見た1人あたりGDPであります。何を申し上げたいのかというと、円建てで見ても高かった日本人の賃金が、1985年のプラザ合意から1995年までの円高によって、逆にいうとドル安によって、ドル建てで見てみると、日本人のコストが相当押し上げられたということです。要は土地も高くて、株も高くて...