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悪い円安論に物申す、ヒステリシスの効果でデフレ脱却か

円安の構造的メカニズム(3)「高いニッポン」から「安いニッポン」へ

高島修
シティグループ証券 チーフFXストラテジスト
情報・テキスト
2022年の円安加速によって「安いニッポン」「悪い円安論」が台頭してきたが、必ずしも悲観すべき状況とは限らない。「高いニッポン」だった時期から現在の円安に至るまでの経緯を振り返ることで、ポジティブな可能性が見えてくる。キーワードは「ヒステリシスの効果」だ。(全4話中第3話)
時間:12:59
収録日:2022/11/15
追加日:2023/01/11
カテゴリー:
≪全文≫

●「安いニッポン」以前にあった「高いニッポン」の問題


 今回のシリーズでは円安問題についてお話ししておりまして、前回、前々回とも、構造的な観点から円安というものを取り上げてきました。こういった中で、2022年のこの円安加速によって、「安いニッポン」とか、「悪い円安論」というものも台頭してきていますので、それについてどういう考え方を持っているのかを少しお話しさせていただきたいと思います。

 結論からいいますと、私は悪い円安論にはかなり違和感を持っております。2022年に加速した円安というのは、10年、20年単位で見ると、日本にとっては比較的ポジティブな影響を持ってくるのではないかと考えております。どうしてそのように考えているのかを、時系列的に順を追ってお話ししていきたいと思います。

 「安いニッポン」というものがだいぶ話題になっていますが、そもそも「安いニッポン」の前に「高いニッポン」があったのだということを認識する必要があるのだということです。

 「高いニッポン」というのは、いうまでもなくバブル前後までの日本の状況であり、何もかもが高かったわけです。一つは土地の値段が高かったわけで、今、この講義を撮影しているオフィスから皇居が見えるのですが、日本のこの皇居(の値段)でアメリカのカリフォルニア州が買えたという時代です。他には、山手線(の値段)でアメリカ全土が買えたというような時代で、まず1つは土地の値段が高かったということです。

 2つ目は、この後お話ししていく通り、日本の株価が高かったということです。後は流通構造も高く、日本人の価格(1人あたりGDP)も非常に高かったわけです。

 どれくらい高かったのか、このIMF(国際通貨基金)の資料に基づき、1人あたりGDPを見てみると、1990年代前半に日本の1人あたりGDPが4万ドルを超えていて、当時3万ドルを下回っていたアメリカをはるかに上回っていたということがお分かりいただけるかと思います。

 重要なポイントは、これはドル建てで見た1人あたりGDPであります。何を申し上げたいのかというと、円建てで見ても高かった日本人の賃金が、1985年のプラザ合意から1995年までの円高によって、逆にいうとドル安によって、ドル建てで見てみると、日本人のコストが相当押し上げられたということです。要は土地も高くて、株も高くて、人も高かったのです。

 例えば、世界のホテルの価格を見ても、東京が突出して高かったというのが当時であり、その中で日本の高コスト構造が問題になっていました。これが「安いニッポン」の前にあった「高いニッポン」の問題であるということです。

 転じて足元において問題になっているのは「安いニッポン」ということになってきますが、このグラフを見ていただくと、「高いニッポン」だった1990年代以降、1人あたりのドル建てで見た日本人のGDPが、いかに伸び悩んだかが分かります。その間、諸外国においては、着実なGDPの増加が起こっています。特にアメリカにおいては、ドイツ、イギリスあたりを上回る所得、GDPの伸びが起こっていて、なおかつ冷戦構造の終結、それに伴うグローバル化の影響もあり、韓国のような新興国においても1人あたりGDP、1人あたりの所得が伸びていて、日本はもう韓国にキャッチアップされるようになっています。こういったことが起こっているということがお分かりいただけるかと思います。

 株価にフォーカスを当ててみますと、お話しした通り、「高いニッポン」の時の日本の株価は高かったのです。1989年末に日経平均は3万8000円台で高値を付けたわけですが、その時のニューヨークダウは2800ドル台ということで、このニューヨークダウが、足元においては日経平均を上回ってきているというところに、日本とアメリカの彼我の差というものを強く感じるわけです。

 そして次のページに移っていただくと、今、お話ししてきたことと非常に絡んでくるわけですが、当時の世界の時価総額ランキングを見てみると、第一位がNTTで、そのあとにほとんど日本の銀行が続いていたということです。

 このあたりも、終わってみれば、日本の不動産バブルで土地価格が上昇したことによって、そういった不動産関連融資などをやっていた(それを担保に取って融資をやっていた)日本の銀行の時価総額が膨らんでいたのです。逆にいうと、不動産バブルの崩壊に伴って、こういった日本の銀行の時価総額がしぼんでいくことになるということがお分かりいただけるわけなのです。足元においては、世界の時価総額ランキングの大半をアメリカ企業が占めていて、日本企業では44位に入っているトヨタ自動車が一番高いという寂しい状態になっていると...
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