「新しい資本主義」の本質と課題
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所得の二極化――話題となったピケティの議論の裏側に迫る
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新自由主義からの時代背景から「新しい資本主義」を問う
「新しい資本主義」の本質と課題(1)新自由主義と『21世紀の資本』
柳川範之(東京大学大学院経済学研究科・経済学部 教授)
「新しい資本主義」という言葉が登場した2021年。はたしてこの言葉は何を意味するものなのか。振り返れば、1980年代以降、国営企業や公的セクターの増大による弊害が浮き彫りとなり、新自由主義が台頭した。2000年に入り、話題を呼んだのがトマ・ピケティの『21世紀の資本』だ。資本主義はこれまでどのような流れの中でどのような変化を見せてきたのだろうか。(全6話中1話)
※インタビュアー:川上達史(テンミニッツTV編集長)
時間:11分04秒
収録日:2021年11月22日
追加日:2022年1月13日
カテゴリー:
≪全文≫

●市場メカニズムはメリットもあるが、限界もある


―― 皆様、こんにちは。本日は柳川範之先生に「新しい資本主義」について、これからの資本主義の課題がどのようなものかということのお話を伺います。柳川先生、どうぞよろしくお願いいたします。

柳川 よろしくお願いします。

―― 今、日本においても「新しい資本主義」という言葉が登場し、改めて資本主義についての興味関心が高まっている局面だと思います。それこそ少し前には、例えば「新自由主義的なあり方」などといった経済学説が注目されました。

 現在、この「資本主義」について、経済学的にどのような問題関心が語られているのかというところからお話をお聞きしたいと思います。そもそも新自由主義は、どのような時代背景から生まれ、どのような効果・恩恵をもたらしたのでしょうか。

柳川 何が新自由主義であるかについて、実はあまり明確ではありません。いわゆる経済学の中でいえば、「市場メカニズムが重要な役割を果たす」ということが近代経済学の基本的な考え方です。新自由主義という考え方や主張は、この「市場メカニズム」を強く重視して、自由化をできるだけ進めていこう、あるいは規制改革を進めていこうという流れや政治的主張であったと思います。ですから、学術的な定義というよりは、政治的な意味合いも含んだ思想的なメッセージだったと捉えています。

 そこで少し学術的な面に立ち返って、市場メカニズムに対し、経済学あるいは社会科学はどのように考えてきたかをざっくりとお話ししましょう。

 「市場メカニズムが優れた役割を果たす」ことはよく知られており、これは確固たる地位を築いているのでしょう。ただし、市場メカニズムが完璧でないことは、最初から分かっていることです。

 経済学の初歩のテキストには、最初に完全競争市場の話が登場し、括弧付きですが「完全競争市場であればうまくいく世界が実現できます」という話が語られる。そのすぐ後に、「市場の失敗」として、この市場がうまくいくとは限らず、いろいろと失敗をするケースがあるということが語られます。「外部性」といわれる、例えば公害のような問題、最近であれば気候変動の問題、あるいは独占・寡占の問題、所得分配の問題などの問題が説明されるわけです。

 経済学の初歩の段階でそのあたりまで必ず教えることになっているのは、何十年も前か...

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