●ダイナミックプライシングとその背後にあるもの
こんにちは。伊藤元重です。
今日は私が最近書いた『ビジネス・エコノミクス』という本で、どういうメッセージを出したかったのかをお話ししたいと思います。本に書いてあることだけを話しても仕方がないので、今、世の中で出てきているいろいろな現象について触れながらご紹介したいと思います。
経済学、特にミクロ経済学の手法はいろいろなことを分析する上で非常に有効だと思います。ビジネスの世界で起きているいろいろな現象をこれで切ってみることによって、いろいろなことが今までと少し違った視点で見えてくるのはもちろんですが、それだけではありません。経済学の特徴として、一つの考え方やツールでいろいろな現象を議論できるので、経済のいろいろなつながりを見ることができます。さらに言えば、例えばインターネットによってビジネスが変わる、あるいは株式市場でバブルが起きて、いろいろな問題が起こるなど、これまでなかった新しい動きをどう考えたらいいかについての視点を提供することができます。これが『ビジネス・エコノミクス』という本のタイトルが意味していることです。
今日は何個かに分けて、具体的な例を使いながら、『ビジネス・エコノミクス』の中で使った分析の紹介をしたいと思います。
第一回目のテーマとして、「ダイナミックプライシング」について、少しお話をさせていただきます。
ダイナミックプライシングについては、いろいろなところでお聞きになったことのある方が多いと思います。今は情報化が進んでいて、非常にきめ細やかな価格設定をすることができるようになってきました。例えば、鉄道や航空、あるいはホテルの料金を、非常に需要が多い時期とそうでない時期できめ細やかに変える、あるいは時期だけではなくて、時間帯によって値段を変えるとか。また、これもダイナミックプライシングに関わる話になりますが、ポイントを活用して、たくさん利用してくれた人には、もっとポイントを提供して、ポイントを加味すると結果的に割引になるという仕組みを作ることによって、お客様にもっとたくさん利用してもらうなどです。
この考え方の背後にあるのは、価格を利用して、企業は顧客にどううまくインセンティブを提供するか、あるいはそのインセンティブを利用しながら...
(伊藤元重著、日本経済新聞出版)