●定年後の生活上の中心になるものを探しておくことがポイント
―― 皆さま、こんにちは。本日は神戸松蔭女子学院大学教授の楠木新先生に、定年後の不安についての講義をいただきたいと思います。先生、どうぞよろしくお願いします。
楠木 よろしくお願いします。
―― 先生は中公新書から、こちらのベストセラーの『定年後 50歳からの生き方、終わり方』(中公新書)と『定年準備 人生後半戦の助走と実践』(中公新書)を始め、定年後の本を非常に多くお書きになっていて、定年後の皆さんへの取材をたくさんされています。
定年後の不安ということですが、テンミニッツTVを観ている皆さまの中で40代、50代の人の多くは、定年が具体的なイメージとしてなかなか像を結ばない、あるいはどういうものか分からないのではないかと思います。先生は非常に数多くのご定年後の皆さんにインタビューされていますが、いかがでしょうか。
楠木 私自身も60歳の定年まで、生命保険会社に勤めました。その前後に、かなり多くの会社員の人たちを中心に、いろいろお話を聞かせてもらいました。
先ほどお話があったように、今現役の人は、定年になってどうなるのか、なかなかイメージが湧きにくい部分があると思います。私が自分自身の体験および多くの会社員の人から話を聞いた時に一番初めに感じたのは、現役の時は、ある意味では仕事をしていたら、それでOKでしたが、多くの人が自分の生活の中心だと思っている仕事が、定年を境にいきなりなくなってしまうので、そうなったときに、孤独まではいかなくても、戸惑いを持つ人が少なくないということです。
定年になったときは、はじめはすごく開放感があります。私もそうでしたが、2、3か月ぐらいは開放感があります。しかし、今まで30年または40年ぐらい、毎日朝から晩まで会社に行って働いていた生活がなくなるので、やはりそれに代わるものを何か見つけないとなかなか大変になるのではと思います。
ありていにいえば、「今日何をしていいのか分からない」や、場合によっては、「今日、どこに行っていいのか分からない」という状態になる人が、全員ではありませんが、少なからずいると思います。
会社の仕事に代わるものを見つけるのが少し難しいために、図書館や朝の喫茶店、あるいはスポーツクラブに行くのですが、それがもちろん別に悪いことでは全くありません...
(楠木新著、中公新書)