●国際労働機関ILOの組織と任務
労働法には、国内のみならず国際的にも労働条件の改善や労働者保護に関する国際労働法があります。国際労働法制定の中心的役割を果たすのが、国際連合・国連最初の専門機関 である国際労働機関ILO (International Labour Organization)です。
ILO の任務は、勧告と国際労働条約の草案の作成であり、国際労働法は条約の形で存在し、各国家によって受諾・批准されることで効力を発揮するようになります。全ての労働者の労働条件、雇用機会における差別の根絶と生活水準向上のために、組織発足以降180を超える国際労働条約を採択しています。
本部はスイスのジュネーヴにあり、加盟国は187カ国(2016年2月現在)です。組織は、総会・理事会・国際労働事務局などの本部組織の他に40以上の国に地域総局と現地事務所を設けています。また、ILO は社会対話の推進から国際連合の機関の中で唯一、加盟国の政府・労働者・使用者の三者が同じ役割と権限を持って政策を決定する、いわゆる三者構成主義の意思決定機関です。
●活動のベースとなるフィラデルフィア宣言
ILOは1919年第一次世界大戦終了後、労働問題が大きな政治課題となり、国際的に協調して労働者の権利を保護すべきと考えられ、ベルサイユ条約の中に規約が記載されました。ILO憲章の前文には「普遍的で持続的な平和は社会正義によってのみもたらされる」と明記されています。当初の参加国は43カ国でした。
第二次世界大戦中、活動は縮小していましたが、1944年、アメリカのフィラデルフィアで総会を開催し、活動を再開しました。その総会で採択されたのが ILO の活動のベースとなっているフィラデルフィア宣言です。その宣言のうち、三つを紹介したいと思います。
一つ目は、「労働は商品ではない」という宣言です。人が働くということは労働力の提供だけではない、生身の人間の営みである。すなわち、 労働者は労働力A 労働力B、労働力Cではなく、Aさん・Bさん・Cさんという、これまで育った背景も現在の環境も異なる人間であり、労働とはその人間の営みということです。 二つ目は「表現及び結社の自由は、不断の進歩のために欠くことができない」という宣言です。 そして、三つ目は「一部の貧困は全体の繁栄にとって危険である」という宣言です。一部の貧困を見過ごしていると社会全体がおかしくなるということです。
また、ILO が労働に関する最低限の基準を、中核的労働基準として定めており、「結社の自由・団体交渉権の承認」「強制労働の禁止」「児童労働の禁止」、そして最後に「差別の撤廃」の4分野があります。加えてILO は1999年の総会において、21世紀の目標として「すべての人へのディーセント・ワークの実現」を掲げました。ディーセント・ワークの正式和訳は「働きがいのある人間らしい仕事」です。
●期待されるILO100周年記念宣言
日本は設立当初からの加盟国で1922 年には常任理事国に就任しましたが、1940年に脱退しました。そして、サンフランシスコ講和条約調印の1951年に再加盟し、1954年から常任理事国に復帰して活動しています。
ILOは、来年 2019年に創設100周年を迎えます。変革し続ける仕事の世界を見つめ、今後の労働政策を議論するために、「仕事の未来イニシアチブ」を立ち上げました。加盟各国は「仕事と社会」「働きがいのある人間らしい仕事の実現」「仕事の組織」そして、「仕事の統治 (ガバナンス)」の4つのテーマに沿って、対話を行っています。2019年の100周年記念ILO総会では、それまでの世界各国での議論の成果をもとに、 仕事の世界にこれからの指針を与える 100周年記念宣言が採択されることが期待されています。
少し余談になりますが、ILO の現在の責任者であるガイ・ライダー事務局長は2012年5月に、第10代事務局長に就任しました。彼は2002年から2010年まで労働組合の国際組織である国際労働組合総連合の書記長を務め、国際労働運動を牽引してきた人物であり、私の友人でもあります。