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課題の多い日本の労働時間短縮問題

労働基準法の精神(4)労働法の具体的な課題

古賀伸明
日本労働組合総連合会(連合)第6代会長
情報・テキスト
日本労働組合総連合会(連合)第6代会長の古賀伸明氏が労働法について解説するシリーズレクチャー。今回は現状の労働法に関する具体的な課題について解説する。古賀氏は課題として、労働時間、男女雇用機会均等、雇用形態の多様化、働き方改革を指摘する。中でも長い間、問題視されてきたのは労働時間だ。(全6話中第4話)
≪全文≫

●労働時間短縮への取り組み


 次に、具体的ないくつかの課題についてお話しします。

 一つは、労働時間についてです。1947年に制定された労働基準法は、一部を除き原則として8時間労働制を導入しました。しかし、使用者を中心に、日本経済の自立を妨げるとの批判もあり、制定後は労働基準法の保護水準を引き下げるべく規制緩和の攻防が行われていました。その後、先進諸国では 1950年代から労働時間短縮への関心が高まり、日本でも1970年代から週休2日制をはじめとする取り組みが進められたのです。

 そして、転機となったのは1986年、日本の経済構造を国際協調型に変更することを目的とした、元日銀総裁の前川春雄氏を座長とする「国際協調のための経済構造調整研究会報告書」、いわゆる「前川レポート」により、労働時間短縮問題は労働政策の枠内から国政の重要課題の一つに位置付けられるに至りました。これにより、法定労働時間の段階的短縮が行われていくことになったのです。

 週48時間労働制を週40時間労働制として、1987年の改正を皮切りに、段階的短縮の第一歩を踏み出しました。その後も漸進的に行われた週 40 時間労働時間制への移行は、1997年4月から猶予事業なしに完全に実施されることになりました。この週48時間労働制から週40時間労働制への移行は、わが国が労働者の働き方を他の先進国並みにする見直しとした歴史的なものです。これにより、総実労働時間の短縮が実現していきました。なお、この1987年の改正では同時に変形労働時間制やフレックスタイム制などの労働時間弾力化政策も打ち出し、さらには裁量労働制も導入されました。


●課題の多い労働時間短縮問題と高度プロフェッショナル制度


 しかしその後、日本はバブル経済、バブル崩壊と異常な経済・社会情勢となり、労働時間短縮の意識は希薄化し、現状でも一般労働者の総実労働時間は一向に減らない状態が続き、年間総実労働時間はこの数十年、2000時間をかなり超えています。加えて、過労死が政府認定だけでも毎年100名を超える実態は、先進国の中では特異な現象です。「KAROSHI」は、そのまま欧米では通じる単語となっています。

 このような状況から、労働時間短縮の法政策の必要性は高まる一方であり、 現在国会で議論されている労働時間の上限規制は速やかに導入すべきです。 そして、勤務間インターバル制度導入も急ぐべきです。加えて、取得率が50パーセントにも到達していない年次有給休暇取得の実効性ある取り組みも重要です。

 一方では、一定の年収要件を満たし、職務の範囲が明確で高度な職業能力を有する労働者を対象とする「高度プロフェッショナル制度」が議論されています。この制度は、長時間労働を抑制している労働基準法の労働時間規制を完全に取り払い、歯止めがきかなくなる提案です休憩も休日も全く関係なく、際限なく長時間労働を可能とするものであり、管理職に適用されている深夜労働とて関係のない制度となっています。

 また、業務遂行の方法や時間配分についての裁量性もありません。労働時間規制を撤廃すると生産性が向上するかのようなことがいわれますが、規制を外したからといって、付加価値が高まるとはいえません。日本より労働時間規制が厳しいフランスやドイツの生産性が、日本より高いことをみても明らかです。このように、高度プロフェッショナル制度は、決して容認できない仕組みです。


●国際的に見劣りする日本の時間外割増率


 労働時間に関連して時間外割増率についても触れたいと思います。日本は通常日の割増率は25パーセント、休日の割増率は35パーセントでした。2010年4月から月60時間超の時間外労働については、60時間を超えた時間に対して割増率は50パーセント以上となりましたが、従業員300人以下の中小企業については、2018年今国会で2023年4月から実施の法案が提出・議論されています。最低基準を定めている労働基準法に、ダブルスタンダードを設けるべきではありません。速やかに中小企業も含めて同一にすべきです。

 また、アメリカ、韓国は平日、休日とも時間外割増率は50パーセント、イギリス、マレーシア、シンガポールは平日50パーセント、休日100パーセント。ドイツは各産業分野の協定で決まりますから幅がありますが、平日40パーセント程度、休日60パーセント程度となっています。国際的に見ていかに日本の割増率が低いか、よく分かっていただけると思います。経営政策においては、グローバルスタンダードとよくいわれますが、労働条件もグローバルスタンダードにすべきです。


●本質的・実質的な男女雇用機会均等へ


 課題の二つ目は、男女雇用機会均等です。1985年の男女雇用機会均等法成立をはじめとする一連の改正が、女性の社会進出に大きな役割を果たしてきたことは事実だと思います。...
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