●重要な「言葉の力」
大竹 米国の大統領も「スピーチは命である」と言っています。そのためには膨大な資料を集めて、しかもものすごく時間をかけて、10分なら10分のスピーチに仕上げます。こういうことを日本の政治家も財界人も、もう少し本気になって取り組むといいのです。国連の総会であっても、海外でお話になる場合でも、たった一人の人物の言葉の力で相手を説得できたら、すごいことだと思います。
―― そこがあまりにもなさすぎたから、今このようなことになっているのですね。
大竹 そうだと思います。昔の人、歴史上の偉大なる人物というのは、その辺りのことは十分にやり遂げていると私は思っています。
●「自立と自律」が一番の基本
大竹 賀川豊彦は、ノーベル平和賞にまでノミネートされているのですが、日本人はほとんど知らないのです。ノーベル賞をもらっていても全然不思議ではない活動をした人物で、まさにマザー・テレサのような本当の「聖人」なのです。
今、賀川豊彦と言っても、誰も聞いたことがないというような状況で、もったいないのです。信仰を貫き、強い精神力で他者への愛に生きる道を実践し、自己の信念と使命感に忠実に生き抜くという教えはもっと現代人に伝える義務が私たちにはあると思うのです。今こそ、賀川豊彦のような人物が求められていると私は思っています。
なぜなら民が民を助くる時代に入ったからです。国家に過度に依存するといった時代ではありません。自立と自律、自分で立つことと律することと、これが一番今基本なのだと思います。これを若者に持たせる。そうすると、国際人として大活躍できるのではないでしょうか。どこの国でもそういう教育をやってきましたし、家庭内でもしっかりやってきています。過度に甘やかす、ということはないわけです。ですから、国全体が甘やかされて育ってきた戦後68年、69年の間に不甲斐ない国民になってしまっている。今、それを変えるとてもいいチャンスの時を迎えていると思います。
●教養教育を徹底して行う市川学園
―― ウィンストン・チャーチルの事例もそうですが、やはりリーダーシップ教育をしてこなかったことが原因ですね。
大竹 千葉県に市川学園という高等学校(中高一貫制)があります。東芝の副社長をなさった古賀(正一)さんが理事長なのですが、お父様がお作りになった学校を引き継がれてものすごい勢いで、いい学校になってきているのです。
そのうちに日本一の高等学校になり得る可能性を持っている高校なのです。たった一人のリーダーでそこまで学校が変わるという実例なのです。教育再生実行会議(第15回 2013年11月26日)の私の提言の中にも添付資料で入れました。
土曜日に教養教育を徹底してやっているのです。古典を読ませディスカッションをする。全国で初めての取り組みです。市川学園ではシカゴ大学で導入している教養学を実行されているのです。
私は日本アスペン研究所を小林陽太郎さんが創られるときお手伝いしました。アスペンでは「アスペン・ジュニア・セミナー」を開催しており、それをずっと古賀理事長がご覧になっていて、「アスペンのノウハウを使わせてください」と言われて、全国で初めて市川学園で採用されたのです。
これを全国の高校で広めていけば、日本の高校生も変わってくるはずです。そのためには、高校3年で終わったのでは不十分ですから、高校を4年制にするという議論を今、教育再生実行会議でしています。1年間延ばして、そこで教養科目をもう少し多く取らせることで、これからのグローバル化に対応できる若者の育成に貢献できると思います。
―― リベラルアーツは、もう避けて通れないですね。
大竹 はい。古典というのは、やはりその時代に生きた人々が、現代人にラブレターを送ってくれているようなものだというように表現していいと思うのです。
祖先からのお手紙なのです。ですから、これは大事に、大事にしないといけません。これが基礎になるわけですから。
●「心の力」を養うことが重要
大竹 特に私が強調したいのは、知力も体力も大事ですけれど、もっと大事なのは心の力、心力です。それが先ほどの「限界突破の法則」にもつながってまいりますし、やはり心の力なのです。「念ずれば花開く」といった、坂村真民が有名な言葉を残されましたけれど、そういうことなのではないでしょうか。
詩人の坂村真民は元早稲田大学の総長奥島孝康先生の恩師です。奥島先生が高校時代に習った先生が、坂村真民なのです。奥島先生は自分の恩師、自分の高校の国語の教師、これをとても誇りに思っていらっしゃるのです。
神奈川県知事の黒岩祐治さんもエチ先生(灘高校国語の教師 橋本 武氏)のようなああいう先生、恩師に恵まれていらっしゃるから、知事が誕生...