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若者に「分かった!」という経験を持たせることが重要

志のある学生を育てるために

小宮山宏
東京大学第28代総長/株式会社三菱総合研究所 理事長/テンミニッツTV座長
情報・テキスト
かつての途上国日本は、先進国という目指すべき明確なモデルを持っていたが、今や、日本社会は自らがビジョンを作り、志を持たなければならなくなっている。こうした社会で若者が志を持つためには、どうするべきなのか?
時間:08:08
収録日:2008/05/21
追加日:2014/03/31
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≪全文≫

●大人が若者に志を見せる-これが社会の教育力


それでは、志のある学生というものをどうやって育てるべきなのか、ということをお話したいと思います。
実は、私はこの答えは極めて簡単だと思っています。
「学生」という言い方をすると「大学で」という意味なのでしょうから、であるならば、大学の教授、助教授といった教員が志を見せることです。教員が志のある研究教育をするということ。もっと言うと、教員自身が志を持って生きるというのが、志のある学生を育てる唯一の道ではないかと私は思います。もう少し言えば、志のある若者を育てるということであれば、大人が志を見せることです。
社会の教育とはそういうものです。いろいろなことを教えますが、最も重要な教育とは、やはり、若者が大人の背中を見て育つということです。
例えば、カルガモの親子でも、あのカルガモの子どもは親が前に歩くから、後ろからついていくのです。親がやることを見ているというのが、最初の教育です。
そして、子どもが育ってくれば先生を見るのです。社会に出れば上役を見ます。その間にテレビを見るわけです。おじさんたちを見て、おばさんたちを見るわけです。これが社会の教育力なのです。

●追いつくべきモデルがあった途上国時代


生まれてくる若者は白紙です。そこからどうやって、どのように若者が育っていくか。もし「今の若者には志がない」と思っているのであれば、それは「社会が志を失ってきている」ということです。
実は、これは日本の状況の変化と非常に関係が深いのです。それは、日本がかつて途上国だったということです。
途上国は、社会が志を持つことが簡単です。それはどういうことか。「追いつく」ということ、追いつくべきモデルがあるということです。
われわれの時代であれば、極論、非常に象徴的に言うと、ハリウッドの映画に見たあの生活や、ヨーロッパにある美しい街並み、そういった先進国があって、そこに追いつくということですから、モデルは明確なのです。
私が大好きな小説の一つに、司馬遼太郎が日露戦争のときのことを書いた『坂の上の雲』があります。日露戦争の時代は大変だった。人も大勢死んだし、みなが飢えた。けれども、よく考えてみると、坂の上に白い雲があった。あの雲がなんだか「行こうよ」と言って、みんなで歩いて行った。この時代は、よく考えてみるとある種幸せな時代だったのだな、というのが、司馬遼太郎の感覚です。
その白い雲に入ってみると、雲は霧なのです。前が見えない。これが先進国です。先進国は、その先に白い雲がないのです。自分たちが白い雲を作るわけです。その志を大人が、あるいは国が、自然には持てなくなったわけで、それは先進国になったからなのです。
そうすると、私が、私たちが、私たちの世代が、国のビジョンを作れるか。ここが若者に志を見せられるか、若者がそれを見て志を持てるかという循環になっていくのだろうと思います。

●「分かった!」という経験が生む「知的な独立」


ただ、例えば大学では何が大事かということを考えた場合、大学は学問を通じて人間を育てるところですから、そういう意味でもう少し具体化して言うと、自分はこのことが「分かった!」という経験をさせることが大事なのです。
これは教わることではないのです。ともかく「分かった!」という経験をさせることです。
この「分かった!」というのは、私も何度か経験があります。「分かった!」とはどういうことかと言うと、「自分で『この問題が分かった』ということが分かる」のです。
そのときには、ノーベル賞学者が何を言おうと、教授が何を言おうと関係ない。自分が「分かった!」ということが分かるのです。これが、「知的な独立」とでも言うことでしょうか。
例えば、「学問の前に教授も学生もない、同等である」というのは、こういう人間の間の関係です。「分かった!」ということを経験した人間同士の関係ということです。

●「分かった!」の追究が志に通じる


実は、小さいことでもこの「分かった!」は経験できるのです。中学生でも高校生でも、本当に「分かった!」というところまで、一つのことでもいいから考えてみるということです。
なぜ、夜歩いていると、お月様は一緒について来るのか。一緒に歩いているように見えますよね。あれがどうしてなのかということでもいいのです。
私はエネルギーや環境問題などの専門家ですから、よく学生にこう言います。
「エネルギーは保存されると言うね。しかし、電気掃除機を使って掃除が終わったら、電気はないではないか。あの電気はどこに行ったのか?消えてしまったのならば、エネルギー保存則は成り立たないだろう」と。
また、別の例であれば、「水力発電がある。あれは上から下に水が落ちるときに、タービンを回して電気を取れるわけだが...
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