●リーダーシップには構造がある
今日は、儒家の思想が語るリーダーシップについてお話ししたいと思います。儒家の思想の理念とは、人間の救済は人間のみ可能であることです。すなわち、人間を救えるのは人間だけだという哲理にずっと基づいて発展をしてきました。
したがって、人間に対する大きな期待と信頼があり、そこから優れたリーダーを論じる部分が出てきます。彼らが人間を救うことを物語っているわけです。そういう点で、儒家の思想自体が既にリーダーシップ論を含んでいると言っていいのです。
そうやって考えてみれば、日本の幕末、あるいは明治維新の内憂外患の時に、わが国を救ってくれた幾多の志士も、幼い頃から四書五経をしっかりと体得してきた人が多いのです。四書五経を勉強することで、リーダーシップの何たるかを身に付けてきたと言っていいと思います。
私は、その四書五経を47年間にわたってひたすら読んできました。その過程で最近非常に強く思うのは、どうやらリーダーシップには、構造といえるようなものがあるのではないかということです。
●リーダーシップの土台は「土壌風土」
何といっても、基礎となるのが「土壌風土」です。土壌風土については、日本人であれば日本、そしてアジア、東洋といった要素が重要になってきます。われわれ日本人が学ぶべきは、東洋、あるいは日本の土壌風土で培った伝統であり、これをもう一回しっかりと確認することが大切なのです。これらはもう目の前にあるわけですから、あくまでも確認するということになりますが、そのことが非常に重要ではないかと思っています。
その「土壌風土」の上に、「普遍的」なリーダーシップがきて、さらにその上に「時代性」がきて、そして「個性」がきます。やはりリーダーは、色濃い個性を発揮して、自分の言葉、自分なりの表現で多くの大衆にメッセージを届けるものです。心の通った言葉、血の通った言葉を吐けないと、リーダーとはいえません。それが個性というものだろうと思います。
リーダーシップといった場合、この4層から成り立っており、これが時と場合によってお互いに相互作用を繰り返して発揮されるのではないかと思います。したがって、われわれ日本人は、人間としての土台をもう一回問題化する必要があります。これを幼年教育のときからしっかり植え付けることが、世界に冠たる日本人としての活動を考えたとき、非常に重要なのではないかと思います。
土壌風土とは、伝統を意味します。DNAというものは、何代もの蓄積があるといわれていますので、日本のこれまでの歴史的風土や伝統を、われわれもDNAとして受け継いでいるわけです。それを自覚するかどうかが非常に重要なのです。それは、もう一度、禅的思考のように自己の内なる自己を見つめることです。つまり、もう一回自分を見つめ直して自分を自覚する、あるいは自分をもう一回確認することが重要だということです。
今日お話しする東洋、あるいは日本のリーダーシップも、これから21世紀の世界で羽ばたこうとする日本人のリーダーにとっては、必須のものになるのではないでしょうか。そういう観点も含めてお話ししたいと思っています。
●精神基盤の強化をもう一回考えるべきだ
日本には、儒仏道禅神、すなわち儒教、仏教、道教、禅、神道といった東洋思想や哲学が蓄積されています。われわれはそういう地域・風土に育ったわけですから、大切なことは、これをもう一回きちんと把握することに尽きると思います。
さらに、日本の地理的特性が生んだ伝統的な精神文化をもう一回確認することです。つまり、この東洋思想や哲学と日本の伝統的な精神文化の関わりをもう一回確認することが、これからのリーダー育成にとって非常に重要なことではないかと思います。なぜなら、それこそが日本人の精神基盤をつくるもので、とかく現代の日本人は精神基盤が浅いとか、軟弱であるといわれているからです。
私の友人で長らくアメリカの一流ビジネススクールで教師を務めてきたような人たちがこぞって言うことですが、日本から来る留学生は頭もいいし能力も高いけれど、残念ながら精神の基盤が強力にできていないためにすぐひるんでしまう、あるいはすぐ諦めてしまう。いうなれば、押しの太さというものに欠けるということです。私は、この辺りに問題があるのではないかと思います。そういう意味では、精神基盤の強化をもう一回考えるべきときに来ているのではないか。それが、グローバルな時代に生きる日本人、あるいは日本のリーダーにとって、非常に重要なところだと思うわけです。
●リーダーシップの根本から始まる『書経』
ここから、儒家の思想のリーダーシップ像の話に入ります。ここでは何といっても、五経の内の一つである『書経』...