『孫子』を読む:行軍篇
この講義シリーズは第2話まで
登録不要無料視聴できます!
▶ 第1話を無料視聴する
閉じる
この講義の続きはもちろん、
5,000本以上の動画を好きなだけ見られる。
スキマ時間に“一流の教養”が身につく
まずは72時間¥0で体験
窮寇の見極め―慎重に、真摯に、冷静に敵を観察せよ
『孫子』を読む:行軍篇(5)敵の動向と窮寇の見極め
田口佳史(東洋思想研究家)
戦争であってもビジネスであっても、常に敵すなわち相手の行動をよく観察し、それに応じて戦略を取っていく必要があるということだ。敵が過度に謙虚なとき、あるいは和を請うてきたとき、逆に強気なとき、その態度の違い、背後には何があるのかをよくよく考えること。また窮寇、つまり進退窮まったという状態を見極めること。そのためには現在のビジネス戦略にも通じることだが、細かな情報の読み取りが重要である。(全6話中第5話)
時間:14分36秒
収録日:2020年10月9日
追加日:2025年2月2日
カテゴリー:
≪全文≫

●いかなる状況にも対応する和戦両様の構え


 その次です。「辭(じ)卑(ひく)くして備を益すは、進むなり」、敵の軍師が訪ねてきて、とても丁重に謙虚極まりないように頭を何度も下げて来たということは、相当これは準備が整っていると思ったほうがいいのです。さらにいえば、敵はもう襲来しようと考えているということです。当時は白旗を揚げて、向こうの敵軍から交渉事のために人が来るということがありました。

 現代でも、戦争終結に向けて、戦地以外でいろいろなやりとりをするわけです。終戦工作というものですが、これをやるときがあります。ここも、私はビジネス孫子で読んだほうがいいのではないかと思います。つまり、競合している人があるとき訪ねてきて、もう頭を下げっぱなしで非常に下手に出てきたなどということは、これは何かある、だから自信満々なのではないか、と思ったほうがいいというようなことです。

 反対に「辭彊(つよ)くして進駆するは、退くなり」で、「辭彊く」は言葉を非常に強くしてということですから、これから大いにやろうと思っていて、どんどん攻めていくよということです。ビジネスでいえば、「シェア拡大のために、2段、3段といろんな新商品を用意しています」などと、そのように言うということは、これはひょっとすると撤退するのかなと、そう思ったほうがいいということです。

 それから「輕車先に出でて」、戦車を先頭に立てて、「其の側に」、左右にいるというのは、「陳するなり」で、陳というのは簡単にいうと戦いですから、つまり戦おうとしているということです。要するに、撃ち方始めの状態というのは、必ず傍らに戦車を立てて行くわけですから、敵軍は戦おうとしているということがはっきり分かる状態です。

 「約無くして和を請ふは」、これは窮してもいないのに和を請う、要するに戦いをやめましょうと請うているということは、「謀るなり」、敵は何か考えがあるということですから、敵はだいぶ弱っていることが分かります。これを「和戦両様」といいますが、和で来たということは戦う意欲もないし、何か戦えない事情があるのではないかと、ちょっと誤解して上から目線で見ていると、急にドッと攻めてきたりすることもあるということです。逆にこちらが行こうと思ったら、そういうふうにあらかじめ敵に思わせておくことも...

スキマ時間でも、ながら学びでも
第一人者による講義を1話10分でお届け
さっそく始めてみる
「哲学と生き方」でまず見るべき講義シリーズ
世界神話の中の古事記・日本書紀(1)人間の位置づけ
世界神話と日本神話の違いの特徴は「人間の格づけ」にある
鎌田東二
今こそ問うべき「人間にとっての教養」(1)なぜ本を読むことが教養なのか
『人間にとって教養とはなにか』に学ぶ教養と本の関係
橋爪大三郎
楽観は強い意志であり、悲観は人間の本性である
これからの時代をつくるのは、間違いなく「楽観主義」な人
小宮山宏
禅とは何か~禅と仏教の心(1)アメリカの禅と日本の禅
自発性を重んじる――藤田一照師が禅と仏教の心を説く
藤田一照
神話の「世界観」~日本と世界(1)踊りと物語
世界の神話の中で異彩を放つ日本神話の世界観
鎌田東二
道徳と多様性~道徳のメカニズム(1)既存の道徳の問題点
多様性の時代に必要な道徳とは…科学的アプローチで考える
鄭雄一

人気の講義ランキングTOP10
豊臣兄弟~秀吉と秀長の実像に迫る(4)信長の直臣、秀吉の与力としての秀長
最初は信長の直臣として活躍――武闘派・秀長の前半生は?
黒田基樹
逆境に対峙する哲学(1)日常性が「破れ」て思考が始まる
逆境にどう対峙するか…西洋哲学×東洋哲学で問う知的ライブ
津崎良典
過激化した米国~MAGA内戦と民主党の逆襲(1)米国の過激化とそのプロセス
MAGA内戦、DSAの台頭…過激化が完了した米国の現在地
東秀敏
生成AI「Round 2」への向き合い方(1)生成AI導入の現在地
生成AIの利活用に格差…世界の導入事情と日本の現状
渡辺宣彦
「アメリカの教会」でわかる米国の本質(2)プロテスタントと「予定説」
カトリックとプロテスタントの違いは?「救済予定説」とは?
橋爪大三郎
何回説明しても伝わらない問題と認知科学(1)「スキーマ」問題と認知の仕組み
なぜ「何回説明しても伝わらない」のか?鍵は認知の仕組み
今井むつみ
人の行動の「なぜ」を読み解く行動分析学(1)随伴性
「なぜ人は部屋を片付けられないか」を行動分析学で考える
島宗理
インテリジェンス・ヒストリー入門(1)情報収集と行動
日本の外交には「インテリジェンス」が足りない
中西輝政
葛飾北斎と応為~その生涯と作品(4)葛飾応為の芸術と人生
親娘で進歩させた芸術…葛飾応為の絵の特徴と北斎との比較
堀口茉純
平和の追求~哲学者たちの構想(5)カント『永遠平和のために』
カント『永遠平和のために』…国連やEUの起源とされる理由
川出良枝