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窮寇の見極め―慎重に、真摯に、冷静に敵を観察せよ

『孫子』を読む:行軍篇(5)敵の動向と窮寇の見極め

田口佳史
東洋思想研究家
概要・テキスト
戦争であってもビジネスであっても、常に敵すなわち相手の行動をよく観察し、それに応じて戦略を取っていく必要があるということだ。敵が過度に謙虚なとき、あるいは和を請うてきたとき、逆に強気なとき、その態度の違い、背後には何があるのかをよくよく考えること。また窮寇、つまり進退窮まったという状態を見極めること。そのためには現在のビジネス戦略にも通じることだが、細かな情報の読み取りが重要である。(全6話中第5話)
時間:14:36
収録日:2020/10/09
追加日:2025/02/02
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≪全文≫

●いかなる状況にも対応する和戦両様の構え


 その次です。「辭(じ)卑(ひく)くして備を益すは、進むなり」、敵の軍師が訪ねてきて、とても丁重に謙虚極まりないように頭を何度も下げて来たということは、相当これは準備が整っていると思ったほうがいいのです。さらにいえば、敵はもう襲来しようと考えているということです。当時は白旗を揚げて、向こうの敵軍から交渉事のために人が来るということがありました。

 現代でも、戦争終結に向けて、戦地以外でいろいろなやりとりをするわけです。終戦工作というものですが、これをやるときがあります。ここも、私はビジネス孫子で読んだほうがいいのではないかと思います。つまり、競合している人があるとき訪ねてきて、もう頭を下げっぱなしで非常に下手に出てきたなどということは、これは何かある、だから自信満々なのではないか、と思ったほうがいいというようなことです。

 反対に「辭彊(つよ)くして進駆するは、退くなり」で、「辭彊く」は言葉を非常に強くしてということですから、これから大いにやろうと思っていて、どんどん攻めていくよということです。ビジネスでいえば、「シェア拡大のために、2段、3段といろんな新商品を用意しています」などと、そのように言うということは、これはひょっとすると撤退するのかなと、そう思ったほうがいいということです。

 それから「輕車先に出でて」、戦車を先頭に立てて、「其の側に」、左右にいるというのは、「陳するなり」で、陳というのは簡単にいうと戦いですから、つまり戦おうとしているということです。要するに、撃ち方始めの状態というのは、必ず傍らに戦車を立てて行くわけですから、敵軍は戦おうとしているということがはっきり分かる状態です。

 「約無くして和を請ふは」、これは窮してもいないのに和を請う、要するに戦いをやめましょうと請うているということは、「謀るなり」、敵は何か考えがあるということですから、敵はだいぶ弱っていることが分かります。これを「和戦両様」といいますが、和で来たということは戦う意欲もないし、何か戦えない事情があるのではないかと、ちょっと誤解して上から目線で見ていると、急にドッと攻めてきたりすることもあるということです。逆にこちらが行こうと思ったら、そういうふうにあらかじめ敵に思わせておくことも...
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