●アイデアを出すために働き方改革を
次に働き方改革について、一言述べます。前回お話ししたように、日本は製造業の工場モデルが引っ張ってきた国です。製造業の基本は優れた生産ラインにあります。今でも最新鋭の工場では3交代で24時間操業しています。製造業の工場モデルが社会を引っ張る状態では、相対的に力が強い男性が長時間働くことが、一番効率良くなります。簡単にいうと、例えば朝8時から夜10時まで働き、「メシ・風呂・寝る」の生活を送るということです。そうであれば、性分業を行い、女性は家にいて男性をケアした方が社会全体としては効率性が高くなる。まさに戦後の日本は、そうして専業主婦層を作り出すことを通じ高度成長を成し遂げてきたのです。
しかし、サービス産業には生産ラインはありません。付加価値の源泉は人間の脳以外にありません。まさにアイデアを出すことが勝負になります。そのためには「メシ・風呂・寝る」では不可能です。早く帰って「人・本・旅」でいろいろな刺激をもらわなければアイデアは出てきません。その意味で、長時間労働をやめて早く帰り、「メシ・風呂・寝る」の生活から「人・本・旅」の生活に切り替えることが、働き方改革の基本となります。
●「女性が輝く社会」のためには長時間労働の是正が喫緊の課題
その理由として、もう一つ大きなことがあります。万国共通で、サービス産業のユーザーの6、7割が女性だとすると、そのような状況で供給サイドに女性が不足していれば、いいアイデアが出てくることはなかなかありません。日本経済を支えていると自負する50代、60代の男性に、女性の欲しいものが分かるでしょうか。欧米の先進国ではこの需給のミスマッチを正すために、例えば「クォーター制」という制度を設けています。一例を挙げれば、女性役員が4割いないと企業の上場取り消しといった強行法規によって需給のマッチングを図ろうとしています。
日本はそこまで達しておらず、「女性が輝く社会」という、ある意味文学的な表現に止まっていますが、狙いは需給のマッチングです。女性が輝くためには男性が早く帰って家事や育児、介護などをシェアすることが大事です。この観点からも長時間労働を是正するということが喫緊の課題であるということが分かっていただけるでしょう。これが働き方改革の根底にある考え方だと思います。
●ヨーロッパとの比較から分かる長時間労働の不利益
数字で見ればより物事は明瞭になります。アメリカは人口がどんどん増え、資源も大量にある国ですから、日本がそのようなアメリカと比較してアップルトゥアップル(Apple to Apple、同一条件での適切な比較という意味)になるとは思えません。むしろ日本は、面積や人口が近く資源もアメリカのように豊富ではないヨーロッパと比較する方がアップルトゥアップルに近いと思います。この20年間ほどの間にヨーロッパの主要国の平均労働時間は1500時間を切っています。成長率は平均して2パーセント前後です。日本は正社員の平均労働時間は2000時間ほどで、この20年間ほとんど減っていません。成長率は平均して1パーセント前後です。
この事実をもってしても、「メシ・風呂・寝る」の長時間労働では最早生産性が上がらないことは明白です。このように考えれば、「メシ・風呂・寝る」から「人・本・旅」へ切り替えなければいけません。ということで、長時間労働の規制やインターバル規制を入れて元気に働けるような世の中にしなければいけない、ということは誰にでも了解されることだと思います。