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ポスト成長時代の行政の仕事は、労働環境の整備

真山仁の経営論(3)平成30年間の反省

真山仁
小説家
情報・テキスト
「働き方改革」が働く人の目線で進められるためには、政府がいかに産業全体の売上の向上を促進するかである。小説家・真山仁氏が、日本企業がはらむ問題を指摘しつつ、政府が取るべき方策と現役世代の心構えについて説く。(全3話中第3話)
時間:05:19
収録日:2018/04/10
追加日:2018/08/20
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キーワード:
≪全文≫

●政府の役割は産業全体の売上を上げる政策を打つことである


真山 昭和40、50年代なら、父親が1人働けば家族が養え、家族旅行もできました。それができなくなったことが最大の問題です。働き方改革を行うのであれば、給料で月10万、ボーナスで平均1人50万増やすことから始めてほしいというのが、おそらく働いている側からの要望でしょう。でもそんなことは簡単にはできません。

 では政府は何をすれば良いのかというと、産業全体の売上を上げることを考えれば良いのです。しかし実際には、新しい産業という夢のような話ばかりして、そもそもの成長戦略が全く進んでいません。どうやって既存の企業がより売上を上げられるような仕組みにすれば良いかという発想が必要ですが、考えられていません。

 ただ、それは無理なことではありません。例えば、リスクを取る銀行にご褒美をあげたり、新規事業を採用している会社の法人税を1パーセントだけ下げたりするようなインセンティブを付ければ良いのです。しかし、平等が第一の日本では「そんな細かいことはできない」と言って、結局やりません。


●平成の30年間をまず反省しなければならない


真山 こういう時こそ政治家が出てこなければならないのですが、今はだれもそんな面倒くさいことはやりたがりません。選挙に負けるから嫌なのです。だからといって国を良くすることをやめるような人には政治家になってほしくない。若い人はそう思っているから、投票に行かないのでしょう。

 本質論をいうと、日本人の誰もがまともな生活をしたいと思っていることに対して、基本的に大きな組織は「うちの会社がつぶれたら、そんなこと言っていられなくなる」と自らが生き残ることばかりを優先してやってきました。そうして、バブルがはじけた後、真っ先に手を付けたのは人を切ることでした。

 そうした意味で、働き方改革を進めるなら、平成の30年間にいかに大企業や国が働く人のための環境を悪くしたかを、まず反省しなければならないと思います。

―― 本質的なことを議論せず、瑣末なことを一生懸命やるという体質は、日本の特徴ともいえるのでしょうか。

真山 そうですね。臭いものには蓋をし、嫌なことを水に流し、責任の所在を明らかにせずにもう1回新しくやってみよう、というのが日本の文化だからです。ただ、それはかつて成長していたからできたことです。例えば、落ちてしまったものを拾い上げて再生するよりも、新しいものを使うことで損失も全部何とかすることができました。

 その時は企業にとって最も大きな存在である従業員の不満が起きないよう、簡単にはクビを切りませんでした。だから運命共同体的な社会をつくることができたのです。そうした状況が今は崩れてしまっている。そうであれば、働いている側の人たちの環境を改善することが、行政の本来の仕事です。つまり、国家と企業という2つの生命体が生き残るために、自身を構成している1つ1つの生き物(国民、従業員)に対して配慮してこなかった。それがバブル崩壊以降の平成30年間だったと思います。


●日本は責任を取らないことが神業のようにうまい国である


真山 それでもだいぶ変わりましたけどね。そもそも、日本人には競争に対する甘さが連綿とありました。だから今、平成の時代が終わりを迎える時期だからこそ確認したいのは、平成のつらさは平成だけのせいではないということです。昭和の時代にたまったツケについて、総括したりしなかったから、結局バブル崩壊とともに始まった平成の時代にその落とし前をつけなければならなくなったのです。結果的には昭和をきっちりと見直して改革することも、昭和の時代にできたルールを改善することもせず、平成の時代になだれ込んでしまい、そのまま平成が30年続いたと思います。

―― どこで間違ったか、誰も考えなかったということでしょうか?

真山 どこで間違ったかについては、一部の人は知っていたと思います。ですがそれを今更言っても済んだ話であるため仕方がありません。日本は、責任を取らないということではある意味、神業のように上手な国ですから。

―― こうした状況は変わらないのでしょうか。

真山 変えなければいけないとは思います。波風が立たず、ずっと安定した会社が良い会社であることは若い人も理解しているでしょう。その一方で、会社での仕事に自分の人生を懸けて最後まで続けられるだろうかと疑問に思い始めている人がいることも間違いないでしょうし、そのあたりの変革を期待している人もたくさんいるでしょう。そういう意味ではようやく、穏やかな国民性の中に変化への機運が出てきているとは思います。
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