●柔軟な働き方に伴う課題
次に、当面する課題についてお話しします。
まず1点目は、柔軟な働き方についてです。私は、これについて、トレンディな働き方といった点がいささか強調されすぎているのではないかと感じています。いわゆるテレワークは、時間や場所を有効に活用し、子育て、介護などと仕事の両立が可能になり、ワーク・ライフ・バランスも実現できるなどのメリットがあるといわれています。このことを否定はしません。しかし、一方では労働時間の管理、労働災害の認定、人事評価の在り方などの課題や、自営型テレワークについては注文者や仲介業者との間で、さまざまなトラブルに直面しているとの指摘があり、十分な環境整備が必要です。
また、現在、政府は副業・兼業を後押ししています。 しかし、そもそも働く者にとって、就業時間外の時間をどう使うのかは本人の自由であり、政府の姿勢には率直に言って違和感があります。副業・兼業を行う人の中には、生活費補填のためにやむを得ずマルチジョブをせざるを得ない人もたくさんいると思われます。こうした人たちが健康で働き続けることができるためには、長時間労働にならないよう現行の労働時間ルールを遵守し、労働時間の管理を厳格にすべきです。そして、セーフティネットをもうけ、最低賃金を上げていく。こういったことが重要ではないでしょうか。
さらに、副業・兼業には労災保険、社会保険、労働保険の適用問題など、法的課題も山積しています。副業・兼業を行う労働者の像は、どうしても高いスキルで年収の多い人が想定されがちですが、やむを得ずマルチジョブをせざるを得ない人がいることを直視し、その視点で法的保護の在り方を検討すべきです。
●雇用類似の働き方は実態の把握が必須
当面する課題の二点目は、雇用類似の働き方です。近年、今述べた柔軟な働き方だけでなく、自営型テレワークやフリーランスといった、雇用関係によらない働き方も注目されています。
多様な働き方の一つとして、クラウドワーキングなど、雇用契約によらない働き方による仕事の機会が増加しており、自営型(非雇用型) テレワークをはじめとする雇用類似の働き方が拡大しています。労働法の保護を受けることができず、半ばノールールで働くという非常に弱い立場に置かれている雇用類似の働き手の法的保護の在り方は、今後の労働政策のメインテーマの一つであるといっても過言ではありません。雇用類似の働き方に関しては、クラウドワーキングをはじめ実態の把握が必ずしもされておらず、アンケートやヒアリングなどを含め、実態を適確に掴むことがまず必要です。
その次に、契約ルール、社会保険・労働保険、最低報酬などのリスクや、社会的セーフティネットなど論点は多岐にわたりますが、早急に方向付けすべきです。最近では、一部の事業者が社会保険料逃れのために、実態は雇用労働に近い働き方にもかかわらず契約を請負契約にするなどの動きもあります。雇用労働からの不当な置き換えなど、許せない行為です。
●国際潮流に学び、多様な働き方の前提条件を整備
この分野での国際的な動きについても触れておきます。日本では、ギグエコノミー(インターネットを介して仕事の受発注を行うこと)が成長戦略や経済成長のテコとして捉えられる側面もありますが、世界ではすでに1周まわって、いかに就労者の保護を図るかという動きにシフトしています。
例えば、Uberを例にしたいと思います。アメリカではUberのドライバーに失業保険の受給資格認定がされました。イギリスでは「Good Work」という報告書で、この種の働き方での労働者保護の必要性が提言され、2017年Uberのドライバーに最低賃金の適用などの権利を保障すべきとする判決が示されました。さらにドイツやフランスではUberのドライバーの雇用関係を認定する判決も見られており、確実に雇用類似の働き手の保護に向けた流れは加速しています。日本でも世界の潮流を見定めつつ、就労者保護に向けて検討する旨を強く打ち出すべきです。
私は、働き方の多様化は決して否定はしません。しかし、そうするためには、前提条件が整備されなければならないと思います。少なくとも三つの前提条件があると思います。
一つ目は、働かせる側の論理だけでなく働く側の意思も尊重されるということです。二つ目は雇用形態の違いによる不合理な格差を認めない、すなわち、均等待遇です。三つ目はセーフティネットがきちんと整備されていることです。
以上のようなことが、働き方の多様化に向けての前提条件となると考えます。さらに付け加えれば、経済政策が規制緩和されれば、社会政策は規制強化することでバランスを保たなければならないと思います。
●人を生かすシステム構築で技術革新に対応
三点目に挙げる...