前回は、「健康長寿」を保つためには社会参画が非常に大事であること、そして日本人を対象とした場合、社会参画の一つが「働く」であると言えることを申し上げました。日本人は世界の国々の中でも独特の労働観を持っています。今回は、日本の国字の「働く」から、日本人の労働観を探ってみたいと思います。
●"Labor"と"Travail"から西洋の労働観を探る
この図は、いろいろな国々の労働に関連する言葉を提示したものです。日本語の「労働」に匹敵する単語の中から、英語の “Labor”とフランス語の“Travail”を取り上げ、その同義語も探ってみたいと思います。ちなみに、中国が用いている漢字の「どう」は「動」の字です。お隣の韓国(朝鮮半島)においても「動」の字を使っています。
それでは、まず英米が使っている"Labor"について少し探ってみようと思います。
英語もしくは米語の“Labor”の同義語には、「痛み」を表す“pain”や「ストレス」に関連する“strain”のような言葉が羅列しています。日本語で表現してみると、“Labor”には「我慢する、痛む、重圧、苦しむ、悪戦苦闘する」というネガティブな言葉が隣接しているということです。
同様に、ヨーロッパのフランスを見てみると、フランス語では“Travail”という言葉で表現されます。ここに“travail = Pain”と書きましたが、英語にするとおおむね"Pain、痛」"という言葉に匹敵します。
この“Travail”という言葉は、「怠け者のお尻をチクチク刺して懲らしめたローマ時代の三つ又のような道具」を意味しているのです。こういう語源からTravailを用いた表現では、「馬車馬のように働く」といった意味に応用されて、使われています。
西洋の労働観は、例えば皆さんがよくご存じのカール・マルクスの「労働は苦役である」という言葉に象徴されるように、「労働懲罰説」を採ります。宗教から捉えても、神がアダムに「おまえは額に汗してパンを得る」と言い、アダムへの労働を懲罰として科したと伝えられています。
●「働」は日本人が作った音訓両読みのある国字
今度はわが国の「働」という言葉を見てみたいと思います。実は、私たちが漢字と呼んでいる「働」の文字は、国字なのです。日...