●「産業保健」とは何か
一般財団法人日本予防医学協会の神代雅晴と申します。今、日本が抱えている大きな課題の一つに少子高齢社会が挙げられます。本講義は、その少子高齢社会の中の高齢労働問題に焦点を当てて、「産業保健」という目線から切り込んでいきたいと思います。
本題に入る前に、まず産業保健という単語が耳慣れない方も多いかと存じます。産業保健とは、働く人々の健康を守り、働く人々の生きがいや労働生産性の向上を図ることを目的とした活動を指しています。
産業保健の同義語として、「労働衛生」や「産業衛生」という言葉があります。労働衛生は、主に行政で使われている言葉です。
●産業医学の父、ラマツィーニの偉大な先見性
また、産業保健に近い言葉として「産業医学」があります。産業医学は産業保健と比べて狭い範囲を示しています。産業活動に関連した健康問題、すなわち働く人々の健康を守る活動を取り扱う、医学の1分野に位置しています。
産業保健は、働く人々の健康を守る産業医学が基本となります。産業医学は、仕事そのものが健康に及ぼす影響と、働いている場所の環境が健康に及ぼす影響の2点から、働く人々の健康管理を進めていく学問です。
今から300年以上前に、イタリアでこれらの関係を見事に解いていた医師がいました。その名はベルナルド・ラマツィーニ。現在では「産業医学の父」と呼ばれています。彼は300年も前に、健康管理の土台となる作業環境管理の重要性を唱えていたのです。
●高齢労働者と医療費が激増する50年後の日本
さて、そんな産業保健の視点から、高齢社会に突入した日本の高齢労働社会の対応策を探っていきたいと思います。まずは高齢社会の実態をご説明いたします。その際のキーワードは「健康寿命」です。
この表は、2017年春に国立社会保障・人口問題研究所が公表した日本の将来推計人口です。この表から読み取れるのは、まず日本の総人口が減少するということ、それに反して高齢者の割合は増大していくということです。さらに、年齢が15歳から64歳までの人々で構成される生産年齢人口が減少していきます。
これらの結果として考えられることは、高齢労働者の増大です。また、高齢者の増大によって、国民医療費はさらに高騰してくるでしょう。言い換えますと、日本の...